ぎんたま!

□僕のわがままを聞いてください
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それはすべて、たまたまだった。普段なら嵐が来ようが宇宙船が来ようが変態ドM忍者が忍び込もうが寝ているはずの早朝。たまたま用を足しに目が覚めて。たまたま寝室に戻る前に呼び鈴が聞こえて。たまたま億劫がらずに玄関に出たら。

大切な恋人が、立っていた。


「おー、土方じゃねぇか。どした?こんな朝早くから?」
「銀時、」
「うん」
「あのよ」
「うん」

土方の目が、揺れて、銀時の正面で止まった。

「誕生日、おめでとうっ」
「…………。」
「………あ、あー。おう。ありがとよ」

誕生日自体を忘れていた様子の銀時だが、わずかに間を置くと照れ臭そうに礼を言った。それを見て土方は内心ほっと肩を撫で下ろし、用意していた言葉を続ける。

「でだ。プレゼントなんだが…。俺ァお前が欲しがるようなもんが浮かばなくて…」
「ああ、いいっていいってそんな気ぃ遣わなくて」

続く言葉を予想して手をぱたぱたさせる銀時に対し、土方は頭(かぶり)を振った。

「それで、お前の欲しいもんはお前が決めればいいと思ってだな───お、俺をっ、やるからっ」
「は?」
「だから!二度も言わせんなバカ天パ!俺をお前の好きにしていいってんだよそんくらい分かれこのヤロー!!」
「は、ハイィっ!?」

顔を真っ赤に染め上げとんでもないことを玄関先で叫んだ土方に、銀時も負けず劣らず真っ赤になって固まることしばし。


「……何でも好きにしていいんだったよな?」

意を決したように、銀時がおずおずと尋ねる。

「…ああ」
「じゃあ俺、土方の好きなことしたい」
「それじゃお前の誕生日プレゼントにならないじゃねえか」
「好きに、って言ったのは土方だろ?銀さんは日頃土方の思ってること全部叶えたいの。それで俺が幸せになれんだからいんだよ。
な、土方。俺からのお願い。1日わがままになってくんねぇ?」

俺のために。

いつの間にか近づいた距離に。耳元で響いた重低音に。土方はぞくりと身を震わすとさらに赤くなった。

「ひっ、卑怯だぞ」

何が?と首を傾げる銀時に、それ以上続けられなくなった土方は銀時の手を掴んだ。そのまま強引に引っ張ると、きびすを返し──。

「ちょ、ちょっとタンマ!」
「あん?なんだよ」
「着替えてくるから待ってて」
「あ…すまねえ」

作務衣の後ろ姿を見送ると、土方は口元に煙草を持っていった。火こそつけないが、次第に落ち着いてきた頭で今しがたまでの自分の行動を振り返って再び顔が熱くなる。恥ずかしい。ひたすらに恥ずかしい。この日のために非番を半ばもぎ取る形で取りつけて、待ちきれず、早朝から相手の家に押しかけて。あまつさえ自分がプ…、と土方がそこまで悶々と考えていると急にガタンッという大きな音がして思考はそこで断ちきれた。


「銀時?」
「あー、だいじょぶだいじょぶ。平気だからー」

玄関奥からかかった不安げな声に応えながら、実のところ銀時のほうはまったく大丈夫ではなかった。着替えてくる、と一言断ったまでは良かったのだ。寝室の襖を閉め、ひとたび冷静になってみるとどうだ、着替えどころかちっとも落ち着かない。箪笥(たんす)から外れた引き出しが床に転がっていた。ついでに銀色の毛玉も側に転がっていた。

「…何アレ、キュン死にさせる気ですかコノヤロー」

顔の半分までを手で覆うと、銀時はひとりごちた。







「ひーじっかった」
「!」

なんとなく外で壁に体をもたせかけながら待っていた土方は、突然横の戸からニュッと顔を出した銀時に驚いた。
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