ぎんたま!

□空を見上げる日
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昔は、文字通り下を向いて生きていた。食えるものは。何か使えるものはないか。
いつからそうしていたのかは分からない。ただ、生きるために骸の中、自分にとって必要なものを探し続け、手に入れて。奪うだけの生活。それは生きる、というよりもただ息をしているだけで。

「おや、随分かわいい鬼が居たものですね」

初めて、空を見上げた。
初めて、生きている人を見上げた。初めて、生きている人からものをもらった。初めて。初めて。初めて─。
生きているということはあたたかいんだということを知った。先生が手のひらを合わせて幸せだと笑う。先生の顔を見上げて俺も笑った。



ずっと曇っていた。それは空のことなのか自分の心なのか。見上げても太陽(せんせい)は見つからない。次第に雨が降り始め、黒く塗り潰され、とうとう何も見えなくなった。



冷たい雨は止まないものだと思っていた。
視界の端に、いつか見たように、けれど違う想いを込めて手を合わせる姿が見えた。
何がそうさせたのかは分からない。声がひとりでに口をついて出ていた。
受け取った饅頭を見て、これで人からものを貰うのは二度目だなと不意に思った。そっと手を合わせた。甘い。
それからの雨はやわらかく、あたたかく降り注いだ。



いつからか玄関が窮屈になった。同居人らが増えた。人の家に勝手に上がり込む奴らが出てきた。
抱えることを拒んでいたはずのものを、自分が受け入れていることに気づいた。捨てたものをもう一度掴むことを決めた。慣れた木の感触は、軽くて、重くなった。心地よい重さを感じながら立ち上がる。今日も息をする。誰かの代わりだなんてもう考えない。ただ、生きたいのだと気づいたから。



***



「銀ちゃーん!新八ぃー!ちょっと来てみるアル!!」
「どうしたの神楽ちゃん」
「いいから早く来るヨロシ!銀ちゃんもちゃんと来いヨ」

名を呼ばれた者同士顔を見合わせて渋々玄関先のベランダに出る。

「オイどしたー?かぐ、」
「すごいアル!!これって消える前に三回お願いすればいいアルナ!?」
『………あ』

神楽ちゃん、それは虹の時じゃなくて流れ星にお願いするんだよ。マジでか。じゃあ私の酢昆布一年分はどうなるネ!そんな会話が目線の下で繰り広げられる。


雨は上がり、太陽がこちらを見ていた。




空をげる





…………………………
銀さんと、銀さんを今の銀さんに形作っているすべてのひとが愛しい。心からお誕生日おめでとう!
2011/10/10
円屋ちぼこ




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