ぎんたま!

□既視感と書いてデジャブ
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※高校生パロ



「いっ、てぇー」

すっかり気を緩めていたところに思わぬ攻撃を受ける。頬が浅く切れる感触に、遅れてじわじわと痛みが広がっていく。原因を作ったソイツは素知らぬ振りでさっさと俺の元を離れていった。





道端で毛並みの良い黒猫を見かけたのだ。黒猫と言えば聞こえが悪いが、本当に惚れ惚れするような毛並みの良さ、色ツヤで、気づけば俺は無意識のうちにその野良(と思われる)に手を伸ばしていた。
想像通りの撫で心地に、一人うんうん俺の目に狂いはなかったわ、と頷く。
コイツ誰かに似てる…。なんだっけコレ、デジャブ?そんなことを考えて。
初めのうちこそ恐々撫でていたのだが、その猫も無理に俺を追い払ったり威嚇したりしてこなかった。だから、ついつい調子に乗ってしまったのだ。それが肉球を触った途端にこの仕打ち。

「お前…C組の坂田か?」

1人回想を続けていたところを後ろから突然呼び止められる。

「そういうお前は……B組の…えっと、多串くん?」
「誰が多串だ誰が」

こめかみを引きつらせつつ呟く目の前の人物に、あーごめんごめん、土方くん、だよね?と両手を合わせるポーズで確認する。

土方十四郎、とでかでかと書かれた剣道の胴着入れを横目でちらりと見る。俺たちの学年では一番強いと言われ(学校一の座はあいにく今年入ってきた1年の新人に奪われている)、剣道部の副主将も務める学内でも指折りの有名人だ。
ついでに黒髪イケメン、無口、無愛想でも折り紙つきなのだが、女子にはそこが良いと評判だったりする。早い話が、これまでいくらなにがしか誘われようと帰宅部を貫いて過ごしてきた自分とはまったくご縁のない、青春まっただ中の人物ということだ。
──今日だって、この様子からして部活の稽古帰りなのだろう。とすると俺は一体どれだけ猫と戯れていたのやら。

多ぐ…もとい土方くんは俺が名字を覚えていたからか一瞬きょとんとしたが、すぐまたため息を吐くと黙って俺に何かを差し出してきた。考えるより先に受け取り手の中を覗く。どこをどう見ても絆創膏だった。それが二枚。思わず顔を上げて相手を見る。

「それ、やる」
「え、いいの…?」
「部活で生傷絶えねぇからよ、いっつも持ち歩いてんだ」
「お、おう。サンキューな」
「気にすんな。じゃあちゃんと消毒しとけよ」

おっかねえんだぞそういうの。一言付け足すと土方くんは去っていった。えっ。何。見てたのひょっとして。猫相手に緩みきった自分の顔、挙げ句ソイツにフられてしまった時の図を想像してげんなりする。

「…情けねぇな俺」

我知らずハー、とため息が漏れた。主の意志に反して自由奔放に跳ねる髪の毛をガシガシと掻き混ぜると、もう一度絆創膏を見つめる。

「…………。」

ぺりっと外装を剥がして、誰の目にも明らかな引っ掻き傷を隠すようにして貼った。ずっと通りに突っ立っていたわけだが、空を仰げばいつの間にやら夕日も沈みかけていて、慌てて帰り道を急ぐ。

「あ!」

ふと感じた違和感を思い出す。そういやなんでアイツは面識もないのに俺の名前を知っていたのか──。まあいいや。明日お礼を言いに行く時でも聞くとしよう。







次の日俺は、顔を真っ赤にした黒猫に出会った。





…………………………
血統書がなくてもお相手は相当気位が高いですよ銀時さん。

なにやら続きそうな予感。

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