ぎんたま!

□しりとり(銀土編)
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今日は銀時が屯所まで遊びに来ている。正確には、俺の部屋に、だ。
だがあいにく今日中に仕上げねばならないデスクワークが入ってしまって。悪いとは思いつつも、俺は先ほどから会話もせずただ黙々と書類に目を通し判を押し続けるという作業をやっている。
銀時は俺の仕事の邪魔にならぬよう、ただ黙って俺の背中に視線を向けているらしいことが気配でわかる。
…訂正。無言でいられるのもそれはそれで気にはなっている。

いい加減単純作業に飽きて集中力が切れかけた、そんな時だった。

「なー土方、しりとりやろ?」
「は?何言ってんだ天パ。三十路近いいい大人がやるようなことじゃねぇだろう」

同じタッパだというのに上目遣いで見上げてくる男を不覚にもかわいいと思ってしまった自分がいて、ムキになって答える。

「………。」
「……だああ!わかった、俺が悪かったよ、お前からでいいぞ」
「ほんとか?!」
「ああ、ほら」

ガバッと顔を上げ少年のように顔をほころばせた銀時に、俺は思わず笑った。



文句を言いながらも始めた遊びは意外にも続く。

「──きつね」
「ネギ」
「ぎ、銀歯」
「バランスボール」
「ルーツ」

しりとりなんて、武州にいた頃総悟の相手をして以来ではないだろうか。何で大人になってまで、と先ほどは思ったが、俺の仕事を中断させないように、でもせめて話をと考えてのことだったとしたら、またかわいいななんて思ってしまう。銀時を見ると、次の言葉を考えて押し黙っていた。

「人名ありだよな?」
「あ?構わねぇけど」
「ぃよっし!じゃあつるべ!!」
「ベスト」
「トッポギ」
「ぎ、義理チョコ」
「こおろぎ!」
「ぎ、ぎっくり腰」
「シャギー」
「ぎ、ぎ、ぎ…」
「土方、お前気づいてんだろ?」
「ぎっ」

思わず声が裏返った。そうっと後ろを振り返ると、こちらをまっすぐ見据える銀時と目が合う。

「な、何に…?」
「人名ありだって言ったじゃんか。先着1名様お手頃なのがいるんですけどー?」

それは、すなわち。
呼べと言うのか。お前の…?

「も、もう言い尽くしちまってわかんねえな。降参でいいか」
「ちょぉぉっと待った。ヒント!大ヒントあげるから!何なら300円もあげるから!!な?」

そうまでして、という呆れ半分、愛しさが込みあげてくる。これで最初からこのつもりだったことはもう割れている。
だが素直に従うのは自分の性質(タチ)じゃねぇ。

俺はふぅ、と一息つくと再び銀時に背を向けることにした。

終わりだ終わり。そう告げ作業を再開すると、ちぇっ。せっかくいい考えだと思ったのによー、とぼやく声が後ろで聞こえてきた。

今だ。

「…もうあと少しで書類も片づくから、そしたら呑みに行くぞ。銀っ、時」

少し早口になった上どもってしまった。反応が全くないことに不安を感じ、ちらりと肩越しに振り返れば。
見たこともないくらい赤く染まった銀時が居て。そいつのわずかに動いた唇に、耳をそばだてる。

「そ、れ、反則だから」
「悪いかよ。自分だってせこい手使おうとした癖に」
「…罰としてお前が奢れよ。十四郎」
「…………」
「…………」




「副長に旦那も。身動きひとつしないで何やってんですかアンタら」

頼むから仕事してくださいよ。
しばらくして、律儀に茶のおかわりを運んできた山崎に、固まったままの大の大人二人が返せたのは一言だけだった。

『…しりとり』



………………………
土方さん1人称。心の中では銀時を連呼してるのに、本人にはテレてなかなか呼べなかったりするといい。そして銀さんはずっと気にしてたという。初代拍手でした。

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