ぎんたま!

□アラジン
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「土方さん。なんでも好きなことひとつ叶えるんで言ってくだせぇ、治しやすから」

いつになく緊張した面持ちで副長室を訪れると開口一番に沖田は言った。

ふざけているわけではない。正座したまま自分と目を合わせようとしない部下を見て、土方はそう判断した。度の過ぎた悪戯をする時はどこまでも大胆なくせに、本音を出そうとすると途端消極的になるのは子どもの頃から変わらないのだ。くわえていた煙草を灰皿にねじ込む。

「そのままがいい」
「はい?」

沖田は大きな目を更に見開いて、うつむいていた顔を上げた。

「…だから!二度も言わせるんじゃねぇよ。俺ァそのままがいいって言ってんだ」
「それじゃあこれからも命狙ったり副長の座奪おうとしたってかまわない、ってことですかぃ」
「テメーでやめたいってんなら好きにすりゃあいい。そのほうが始末書も無駄な出費も減るからな」

無駄な出費。
他でもない、沖田の隊務中の暴走によりできたものだ。そこには、幾分多めに包まれた修繕修理費も含む。それがわからぬ沖田でもなかった。

「…わかんねえです。アンタが何考えてるか」

だって。そのままでいいって。

「俺もわかんねえよ。けど、そういう行動も全部ひっくるめて今のお前があるだろ。伊達にガキの時から見てたわけじゃねぇ。
…だから、全力でそのままぶつかってこい。この俺が受け止めて─いや、違うな。『相手』してやる」

参った。
完璧な殺し文句だ。
その意志の強い切れ長の瞳も、思わず見とれる面差しも。何よりその穢れない魂を。
独り占めしたくて沖田はここまでずっと追いかけてきた。だが今は。同じ、スタートラインにいる。受け止める、ではなく、相手をすると、対等であると認められた。

高揚感とも充足感ともなんともつかない気持ちを抱え、沖田は畳を蹴った。助走をつけるような距離などもとよりない。文字通りタックルを挑んだ沖田に、土方は微動だにすることなく受けとめた。

「ハナッから素直にしてりゃあいいんだ」

ふん、と荒く息を吐く音が頭上で聞こえ、沖田は肩を震わせる。

「オイ。…何笑ってやがんだ」
「いえ別に?」
「…バカガキ」
「バカ上司」

今度こそふたり顔を見合わせて笑ったのだった。




俺の願いは、なんでもアンタが叶えてくれる。

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