ぎんたま!

□マスクの効き目
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※3Z

「先生。風邪引いたのか…?」

不安げに眉を寄せて。それが国語科研究室に通された土方の第一声だった。

何かまた悩みでも抱えているのかと思えば、自分の体調を心配してくれていたとは。素直に嬉しいという気持ちと、誤解を解かねばという考えが銀八の頭をよぎる。結果、少しからかいたい、と教師にあるまじき考えが勝った。

「え?土方、先生のこと心配してくれてるの」

ニヤニヤとそう問えば、愛しい教え子は顔をほんのり赤らめた。

「優しいなぁ〜土方は。ひょっとしなくても今日の授業中俺のことチラチラ見てたのは、そういう理由だったわけか」
「…だって、先生普段なら絶対風邪引かなそうだし。なのに今日はマスクしてるから」

しゅんと音が聞こえてきそうな土方の様子を見て銀八はそこで初めて慌てた。

「ごめんな。コレ風邪じゃなくて髭剃るの忘れちゃったんだわ。だから無精髭隠してただけ」
「へ、」

ほら、と片側のヒモを摘まんでざらついたあごを見せる銀八に、土方はいよいよ耳まで真っ赤になってしまう。

ぽんぽん、と頭を撫でてあやすようにしてやると、うつむいた土方の唇が動くのが見えた。

「せんせいが…」
「うん?」
「先生の、」
「うん」
「先生のばか!」

一言言い残すと土方は鞄を掴みパタパタと少女漫画のヒロインさながらに去って。

「…こりゃあ参ったな」

確かに馬鹿は風邪引かないっていうけどさ。
ちょっとからかい過ぎたかと反省する。マヨネーズでも買って家庭訪問するか、と銀八はひそかに決めたのだった。




…………………………
土方が出ていったのは、ほんとは銀八先生のヒゲにびっくりしちゃったから。


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