刀剣乱舞

□刀剣乱舞 本丸生活編A 第三章
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刀剣乱舞 本丸生活編A 三章

 上手く笑えていただろうかと、怜音は出陣部隊を見送ってから、考え込んでいた。
『本霊が呼ばれたのも納得だ。三日月が来ていないのなら、好都合と思ってもいい。あいつが来る前に、とっとと決めてしまえ。そのほうがいい。刀剣同士が争うところなど、見たくないだろう?』
 そんなことを言われても、どちらかを選ぶとしても、今の段階ではどちらも同じくらいには友人として好きだ。
「はー…………」
 怜音は鶴丸を部屋に案内した後、ちょうど通りかかった一期一振に蜻蛉切と同じく本丸の案内を任せ、さらに通りかかった小夜を捕まえて、抱っこして頭なでなでしていいかと不審なことを言ってしまったが、小夜はまったく動じずに首を縦に振ったのだ。
「鶴さんがきたから、喜んでるかなと思ったけど、そうでもないみたいだね。何かあった?」
 縁側で小夜を膝の上にのせて、頭を撫でてため息をついたところで苦笑する燭台切が外からやってきた。
「小夜、ありがと。ごめんな、遠征の合間に」
 地面に小夜を下ろし、飴玉を持たせた怜音は頭を撫でて遠征に行くように告げた。チラッと燭台切を見て、怜音に視線を移した小夜は、小さな声で呟いた。
「誰か復讐したいなら」
「それは間に合ってる」
「主は優しいから、何も言ってくれない」
 小夜は怜音に元気になってもらいようで、落ち込んでいる原因が誰かにあり、その相手に復讐なりなんなりすると言っているのだ。
「いや……元気ないのは自分が悪いわけでもあるんだ。誰かに傷つけられたとか、そういうんじゃないから、遠征いっておいで」
 優しく撫でて微笑むと、小夜はコクリと頷いて門のほうへ向かって走っていった。
「隣座ってもいい?」
 立ったままだった燭台切は怜音の隣に座りたいようで、わざわざ尋ねてきたので、怜音は遠慮なく自分の隣を手で示した。
「どうぞ。お茶持って」
「君はいつも自分で率先してやろうとするよね。僕が淹れてくるよ」
 燭台切が座ろうとすると、怜音は早速自分の部屋からお茶を持ってこようとするが、燭台切が先に動いて靴を脱いで縁側に上がる。
「氷なくていいから」
「了解」
 怜音の部屋備え付けの冷蔵庫から自分の淹れたポットの麦茶を出し、手早くコップに注いだ燭台切はすぐに怜音に麦茶を手渡して、隣に座る。
「ありがと」
「鶴さんに何か言われた?」
 燭台切が見ていたように言うので、怜音は思わず飲んでいた麦茶を噴き出しそうになった。
「な、なんで?」
「鶴さんと会ってから落ち込んでるみたいだから」
 わかりやすいのかなと、怜音はコップを置いて片手で頬に触れた。
「三日月が来る前に、光忠か清光どちらかを選んでおいたほうがいいって言われたんだ」
「それは……随分と早急なというか……どういう意味で鶴さんもそんなことを言ったのかな」
「鶴丸にも俺の霊力がちょっと見えるみたいなんだ。三日月を作った刀匠の弟子が鶴丸を作ったからだと思うけど……俺の力のことにも納得して、三日月がきたら……まずいんじゃないかって。刀剣同士が争うのは見たくないだろうって言うんだ」
 当事者でもある燭台切に相談するのは躊躇われたが、一人で抱えるのも重い問題である。
「ごめんね……」
「なんで謝るんだ?」
 ジッと庭の池のほうへ視線を向けていた怜音だったが、予想もしていなかった燭台切の言葉を聞いて、彼へ視線を向けた。
「君を好きになることで生じる問題は予想がつくんだ……想定してなかったわけじゃない。君に気持ちを伝える刀剣が今は僕を含めて二人、もっと多くなると思ってる……」
「どうして……」
「簡単に言うと、君がとてもいい子だから」
 そんなことを言われても、怜音は首を傾げるだけだ。
「……子供扱い?」
「そうじゃなくてね……。好きだって僕は伝えたけど、君が受け入れてくれるなら僕は君と抱き合いたいし、口吸いも、同衾もしたい。ちゃんとわかってるよね?」
「う、うん……」
 欲望を持った好きだという意味が燭台切にしっかりと見つめられて言われてしまったため、妄想が現実味を帯びてしまった。
「どんな言い訳をしようとも、最初に君に興味を抱いたのはやはり突出した霊力の高さだよ。本霊を呼ぶなんて異例なことをされた僕は君に関わっていくにつれて、君の好きなところがたくさん出来た」
 思い出を語るような燭台切を見つめているうちに、再び告白されているような感覚に陥った怜音は恥ずかしくなって少し俯いた。
「今、君の霊力が突然審神者としての平均値になってしまったとしても、僕は好きだと言い続ける自信はあるんだけど、たまたま好きになった君が稀に見る高い霊力を備えているということは、僕たちにとってとても都合がいいことなんだ」
「都合がいい…………?」
「そこからは俺が話してやろう」
「ん?」
 声は聞こえたものの、姿が見えず怜音は背後を振り返ったが、誰もいない。
 振り向いた瞬間上から白い物体が降ってきた。
「驚いたかー?」
「う、うん」
 声こそ出さなかったが、十分驚いた。まさか屋根から鶴丸が飛び降りてくるとは思わなかったのだ。
「鶴さん、主に変なこと言うのやめてほしいな」
「おいおい、ここで初めて会って早々説教か、光坊。じゃあ俺からも説教だ。とっとと主を落としてしまえ」
「それ説教じゃないから、鶴さん」
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