黒子のバスケ

□黒子のバスケ 第五章
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黒子のバスケ
第五章「秘密」

「整列してください」
 審判が片手を上げて、海常と誠凛選手五人を向かい合わせて並ばせる。
 影の薄さから黒子が整列しているのに気付かれないという多少のハプニングはあったものの、試合が始まる。
 ジャンプボールでボールを取ったのは海常だ。
「よし、一本きっちり行くぞ」
 ゆっくり攻めようとしていた矢先に黒子が笠松のボールをカットし、ドリブルでゴールへ向かう。
 しかし、追いついた笠松が立ちはだかろうとしていた時、ボールは斜め後ろへパスされた。
 ボールを受け取ったのは火神で、彼はそのままダンクを決める。
「よっしゃー!!」
 誠凛の得点から始まった試合だが、喜ぶ火神の手にはダンクで叩きつけたまま持ってきてしまったバスケットのゴールがある。
「ゴール壊しやがった!」
「なんだ、あいつ」
 いつの間にか集まってきた観客が騒ぎ、麗一も小さく口笛を吹いた。ゴールを持ったままの火神と黒子が監督の前にやってくる。
「すいません、ゴール壊しちゃったので全面コート使わせてもらえますか?」
 監督が震えて怒りながらも、試合は一時中断となり、全面コートの整備に入る。
「楽しそうでいいなー……」
 ベンチを移動し、着替えていた黄瀬の横で麗一がポツリと誠凛側のベンチを見つめて呟いた。
 本人は無自覚なんだろうが、思い切ってバスケが出来ない体になってから、麗一は絶望こそしなかったものの、バスケに対する思いは強くなっていった。
「赤司っち……試合終わったら、オレとやろう?」
「試合終わって俺とやる元気があるならなー」
 誠凛の方を見つめたまま、麗一は無理だろと言わんばかりに適当な受け流しをしていた。
「赤司っちとワンオンワンするために、この試合早く勝って終わらせるし」
 黄瀬が自信満々にそう言った瞬間、麗一は首を振って視線を黄瀬に移す。
「……そんなこと言ってると負けるぞ」
「オレは負けねーっスよ。黒子っちにも、赤司っちにも」
「俺に勝てたことないくせに」
 黄瀬の自信を打ち砕くように麗一はため息をついて呆れた。
「赤司っちにはこれからっス! 今が伸び盛りなんっスから、この試合で見てほしいっス」
「はいはい」
 早く行けと追い払うように手を振った麗一。
 黄瀬が出てこその海常フルメンバーだ。それでどこまでやれるか誠凛の真価がわかる。
 試合再開から、凄まじい応酬になった。
 始まって五分とは思えないほどのハイペースで試合は流れ、海常リードのままで試合は誠凛に不利な状況になっていく。
 しかし、帝光のキセキの世代と共に戦っていた黒子の影の薄さを利用して、パスの方向を変えたりするミスディレクションの活用で一時は誠凛が同点にまで追いつくが、慌てた黄瀬の手がぶつかって黒子が頭を負傷して離脱。
 そこから点差を広げられないよう誠凛が追いすがり、黒子が復帰したことで海常を追い詰め始めて、最後はブザービーターで逆転されてしまい、試合は誠凛の勝利で終わった。
(いい試合だった)
 麗一がベンチから立ち上がって、黄瀬が泣いている姿を見てため息をつくと、ふと二階に見知った姿があるのを確認して、その男が立ち去っていくのを慌てて追いかける。
 試合終了の挨拶も終わり、練習着に着替えた黄瀬は麗一がいないことに気付く。
「監督、赤司っちは?」
「さっき外に出て行ったらしいが」
 黄瀬は疑問を感じながらも外に出て、とりあえず水を浴びて汗を流そうと手洗い場に向かった。
 負けたことを実感して、さらに慰めてもらおうと思っていた相手がいなくて沈んで頭から水道の水を浴びていた黄瀬は麗一がやってきた気配がしたので、思わず声を出していた。
「負けたんっすから、赤司っち……入部して」
「……誰が赤司だ。お前の双子座は今日の運勢最悪だったのだが……まさか負けるとは思わなかった」
「あれ? この声……緑間っち……?」
「俺もいるけどな」
 緑間の背中から顔を出した麗一だが、慌てた黄瀬が彼の腕を引っ張って引き寄せる。
「ちょっ!! 何しに来たんっすか、緑間っち。赤司っち盗りに来たとか言わないっスよね?」
 顔が濡れたままだとか、そんなことに構っている時ではない。緑間は麗一を奪いに来たかもしれないのだ。
「お前があまりにダメな試合をしていたからな、それも有りかとは思ったが、あの試合展開が赤司の采配ではないなら、改善の余地があるか」
「俺は一言も口挟んでない」
 麗一がバスケをやらずとも、部に入ってマネージャーやコーチのようなことはやると思っていた緑間。だからバスケ部にも入っていると思ったのだが、麗一はまだバスケ部にも入っていない。
「さっきの黄瀬の口ぶりからすると赤司、お前はまだバスケ部に入っていないのだな? なぜだ?」
「……ムカつくから」
 ボスッと音がするほど黄瀬の顔面に畳んだままのタオルを叩き付けた麗一は、彼の手を引き剥がして少し離れた。
「もー……最近の不機嫌の原因ってオレなんっスか?」
「赤司、今からでも遅くない。オレと一緒に」
 赤司はジッと緑間の身体を見ていた。後ろへまわろうとした瞬間、緑間に手で目を塞がれた。
「帰る。お前を敵に回すと恐ろしいことはオレもわかっているからな。隅々までデータを取られる前に帰る」
 みすみす敵にデータを渡すつもりはないと、緑間は帰って行ってしまった。
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