黒子のバスケ
□黒子のバスケ 第二章
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黒子のバスケ
第二章『躊躇いの気持ち』
黄瀬が基礎練習に励んでちょうど一週間、いつものように第二体育館でアップ前のモップ掛けをしていると、急に周りの空気が変わった。
誰か来たのかと、黄瀬がモップから顔を上げると、目の前に麗一がいた。
「赤司っち」
「今日から一軍。行くぞ」
「あ、はい」
モップを片付けて麗一の後を追う黄瀬。二軍選手は黄瀬の急成長に驚いており、入って二週間の昇格テストなしの一軍合流は久々のスピード昇格だと黄瀬の耳にも聞こえていた。
渡り廊下を歩く麗一の後ろを歩く黄瀬はふと気になって、彼に尋ねた。
「赤司っちは最初から一軍だったんっスか?」
「そんなわけないだろ。最初二軍で、三日くらいだったかな? 一軍に行ったよ」
振り返らず、けれど嫌味でもなく麗一は淡々とそう言った。
「そ、そうっスか」
やっぱり才能がある人は違うなと思っていると、第二育館より少し大きい第一体育館の入り口へ踏み込むと、目の前で飛び上がってダンクを決める青峰が二人の視界に入った。
「レイ、黄瀬と一緒なのか。どうしたんだ、そいつ」
「知ってるのか? 今日から黄瀬も一軍」
ゴールに手をかけたまま見下ろしていた青峰はすぐに下りる。
「この前ボール拾ってくれたからな。すげーじゃねーか、二週間でこっち来るなんて」
二人の会話を聞き流しながら、青峰のダンクを見ていた黄瀬は驚いていた。
「でさ、黒ちゃん知らない?」
「知らねー。それよりレイ、休憩済んだら試合入ってくれよな」
青峰は笑顔で相手チームが持つボールを追いかけて行った。
「はいはい。それより黒ちゃんを……」
いざ麗一も黒子を捜すとなると苦労する。一軍が全員集まって練習メニューを確認したはずなので、黒子は今第一体育館にいるはずなのだが、姿が見えない。
「黒ちゃん?」
「黒ちゃんが黄瀬の教育係になるんだけど……」
「教育係?」
麗一がキョロキョロ捜している人物はよほど見つけにくいのか、黄瀬もまったく知らない黒ちゃんという人物が気になった。
「黄瀬は途中入部だから、一年と一緒に雑務をさせろって先輩がな」
「赤司くん」
「ああ、黒ちゃん」
左から聞こえたと思った麗一は左を振り向いたが、そこに黒子はいなかった。
「こっちです」
後ろから腕を掴まれたので、麗一はそのまま振り返ると、黄瀬の少し後ろに黒子がいた。黒子を見て黄瀬はどこか納得できないといった顔をしている。
「今日から一軍に入る黄瀬涼太くん」
麗一が紹介すると、黒子は小さくお辞儀をして自己紹介をした。
「黒子テツヤです」
「教育係の言うことはしっかり聞くように」
「赤司っちが教育係じゃないんっスか?」
トンッと軽く黄瀬の胸を叩き、麗一は試合の審判をしている桃井の方へ歩いて行く。
「黒ちゃんが適任なんだよ」
麗一は手を振って青峰との試合に参加することになり、麗一と青峰、二人のプレイは黄瀬をさらに興奮させることになるのだが、教育係の黒子に関しては不満が募る一方だったのだった。
部活終了後、帰ろうとしていた黄瀬を校門前で待ち構えている集団があった。
「よっ!」
手を上げたのは青峰だ。他にも麗一に黒子、紫原がいて、どうも四人は黄瀬を待っていたようだった。
「どうしたんっスか?」
「黄瀬、一軍昇格お祝い会すっぞ」
青峰が肩を組んで、黄瀬を巻き込み先頭を歩き出す。後に続いて麗一と黒子、紫原が歩いて行く。
「なんなんっスか…」
照れながら向かった先は、学校近くのコンビニで、しかもアイスを箱で買わされたのは黄瀬だ。
「なんなんっスか、これー!! お祝い会がアイス……しかもオレが払ってるし」
アイスを手にしながら、黄瀬は大いに不満を漏らす。
「いいだろ。モデルで稼いでるんだし」
「箱で買ったからお得だよね」
紫原は既に食べ終えていた。
「しかも何か増えてるし!」
ビシッと黄瀬が後ろを指差すと、そこにはアイスを食べる緑間がいた。
「オレは元々コンビニにいたのだよ。そこを黒子に誘われて……まあ、食べてやらんこともないのだよ」
「っていうか誰っスか?」
黄瀬は初対面の緑間に名前を聞いた。
「緑間真太郎だ。レギュラーの名前くらい覚えておくのだよ」
「入ったばっかで覚えてないっスよ」
麗一が一口アイスをパクッと食べていた。
「久しぶりにアイス食べた」
「そういえば麗一、赤司は?」
緑間が少し歩み寄ってきて麗一にいつも帰りは一緒のはずの征十郎がいない理由を尋ねてきた。
紫原は再びコンビニに入って行き、黒子と青峰と黄瀬は何やらアイスで当たりが出たと騒いでいる。
「征ちゃん? コーチに呼ばれてるし、長くなりそうだから途中までみんなと一緒なら先に帰っていいって」