短編
□あなたの子供よ
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「ん?近藤さんはまだ起きて来てないのか?」
朝食をとるべく真選組内にある食堂へやってきた土方は、近くにいた山崎に声をかけた。
局長である近藤の姿が、どこにも見当たらない。いつもなら、この時間には来ているはずなのだが。
「え…そうですね、まだ姿を見てませんが…」
「…そうか……俺が様子見てくるから、お前らは先に食ってろ。」
はい、と返事をする山崎を残し、土方は近藤の部屋へと向かった。
「嫁さんは大変ですねィ、土方さん。」
「てめーは黙ってろ。」
…ったくあの人は……
心中でぼやきながら、屯所の廊下を歩く。
いい加減きちんと時間を守るようになってほしい。大体局長自ら遅刻とは何事だ、隊士達に示しがつないではないか。
(…ん?ちょっと待てよ)
そこまで考えて、土方はふと気付く。
そういえば、近藤さんが寝坊なんて珍しいな。二日酔いか?いや、でも昨日は一緒に晩酌もしなかったし、すまいるにも行っていなかった。…まさか体調でも悪いのか?
一度そう思い当たるといてもたってもいられず、土方は急いで屯所の一番奥にある近藤の部屋へと足を進めた。
部屋からも出て来ねぇってことは、起き上がれないほど辛いのかもしれねぇ…!近藤を心配する気持ちが、土方を急がせる。
目的の部屋に着くなり、襖に手をかけた。
「…近藤さんっ!」
スパンッと音を立てて襖を開け、部屋の中を見る。
「ト、トシ!?」
近藤はいつも通り隊服を着て、部屋の真ん中に座っていた。いきなり襖を開けたことに驚いたのか、やけに焦った顔で土方を見ている。
「っ、良かった…」
特にいつもと変わらない様子の近藤を見て、土方は遅刻で怒っていたことも忘れて安堵の息を吐いた。
「え、あ、うん。あ、あのー…トシィ……」
「ん?どうした近藤…さ、ん………」
ここに来るまで、土方の頭の中は近藤に何かあったのではということでいっぱいだった。
だからだろう。
「……何、そのガキ。」
近藤と向かい合うようにして座っていた、幼い男の子の存在に気付くのが遅れたのは。
その男の子は、名前を優太といった。年は五、六才くらいだろうか。
近藤の説明によると、事の次第はこうだ。
この日、珍しく起床時間より早く目が覚めた近藤は、たまにはと手早く身支度を整えて屯所の庭を散歩していた。
清々しい朝の空気を心地よく感じながら何気なく歩いていると、庭の隅の方から人の気配を感じ、近づいてみると、茂みの中でこの子が膝を抱えて震えていたのを発見したのである。