松慶

□好きと愛してるどっちを言って欲しい?
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「…いきなり、どうしたのかね。」

「だからさ、松永先生はどっちがいいのかなって思って。」

「……」


松永は大きなため息を吐き、くるりと慶次に背を向けてノートパソコンの画面へと視線を戻す。

すると慶次は無視はひどいよ先生と言いながら、背後から松永の首に腕を回して抱きついた。


相変わらず困った子だ、と松永は思う。

大体こっちは面倒な課題プリントの作成を昼休みのうちに終わらせてしまおうと、デスクでパソコンのキーボードを叩いていたというのに。

そこそこ老朽化の進んでいる科学準備室のドアを無遠慮に開け放ち、もう少し静かに出来ないのかねと言うより先に聞こえたのはこんな台詞。


「ねぇ松永先生!好きと愛してるどっちを言って欲しい!?」


…教師の仕事を妨害する行動も十分ひどいことなのだと、どうして気付かないものだろうか。

頭の片隅でそんなことを考えながらも、淀みなく手を動かしていく。

すると、松永の肩を抱きしめる慶次の腕にぎゅっと力がこもった。


「ねぇ先生〜、どっちがいいか教えてよ〜。」


ぐりぐりと頬を擦り寄せてくる慶次は、一度言い出したらなかなかしつこい。

もう一度ため息を吐き、松永は仕方なく慶次の話題に付き合うことにした。


「…大体、卿は何故突然そんなことを言い出すのかね…」

「え?いやぁ…別に、これといった理由はないんだけどさぁ。」


松永が話にのってくれたことが嬉しいのか、慶次は声の調子を上げる。

正直松永は特に理由が無いなら仕事の邪魔をしないでくれと言いたかったが、あまりに慶次が嬉しそうに言うので黙っていた。


「なんか…さっきふと思ったんだ。愛を伝える言葉って色々あるけど、人によってそれぞれ感じ方も違うでしょ?だから、松永先生はどんな言葉が一番嬉しいのかなって。」

「…卿の考えることは、相変わらず面白いな。」

「茶化さないでよもう!だって、俺…」


そこまで言うと、慶次は松永の着ている白衣をきゅっと握った。



「…松永先生には、俺の愛をいっぱい感じて欲しいんだもん。」
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