デジモン

□『誰か』は大変なんですよ
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「あら、まぁたやってるの?あの二人」

パソコン室に入ると、続いて入ってくる空がオレンジの髪を揺らして呟いた。





か』は
大変なんですよ






「ヤーマトー。悪かったってー。な?この通り!」

先程から何度このやりとりを目にしただろう。
さっきからこの調子で太一がヤマトに謝り倒している。けれどヤマトは無視を決め込んでいるようで、太一が移動する度に椅子をくるくる反転させるから、ますます太一の眉がハの字になっていく。

光子郎はとりあえず中に入る空を待ち、ドアを閉める。そして、近くにいた太一と同じくらい、いやそれ以上にオロオロしている大輔に尋ねた。

「ちょっと、大輔君。これはどうしたんですか?」
「光子郎さん!それが俺達にもわかんねーんすよ!」

切羽詰まった表情はまるで大輔のほうが当事者のようだ。その大輔にタケルが更に補足を続けた。

「今日はお兄ちゃん達の方が早く終わったみたいなんです。だから僕達が来たときには既にあの状態で」
「そうですか…」


特に約束をしている訳でもないのに放課後になると誰ともなく集まるようになったパソコン室。もう、しばらく前から談話室と成り果てているここは、今日もやっぱり時間ができた者達が集まっていた。
普段は差し入れにお菓子を持ち込んだりして賑やかなここだが、今日はいつも輪の中心となっている二人の様子がおかしいから、皆の目は二人の動向を追ってしまっている。
まぁ、そうは言ってもこの二人に限定すればある意味こういうことは日常的なこととも言え、正直なところ呆れも半分楽しんでいる部分もあるんだろう。
太一が謝り倒しているところを見ると、今日はどうやら太一が全般的に過失があるらしいし。光子郎に言わせれば、またですか?

「太一さん。まったく今回は何をやってくれたんですか?」

と問うところだ。

「光子郎、ちょうどよかった!お前からも言ってくれよ!ヤマトに俺の話聞いてやれって」
「光子郎。そんなこと言う必要はないぞ。俺にはそんな義理ないんだからな」
「あ、ヤマト!お前ってやつはそういうことを言う!」
「ふん。言わせてるのは太一だろ」

助け舟を出す光子郎に期待の眼を送る太一。だが、ヤマトが念を押すから埒があかない。
それでも、こうして声をかけるだけで先程まで目も合わせていなかった(ヤマトが合わせていなかっただけだが)二人に会話が生まれる。

世話が焼けるんですよね。本当に。

光子郎が溜息をつきたくなってしまうのも仕方がないのかもしれない。
誰かが間に入れば明日には仲直りしていることが多いのだ。この二人は。
それがわかっているからこそ、空ももう最近では取っ組み合いにならない限り放っておくことにしているらしい。
タケルやヒカリに至っては微笑ましそうに眺めているし、他の4人も大輔を除いてだんだん理解しているようだ。
唯一納得いかないことは、いつの間にか光子郎がその誰かをしなければならなくなっていることだろうか。

あーもう。今度は言い合いになってるよ。

「んだよ!謝ってんだろ!」
「別に謝ってほしいなんて頼んでない」
「んじゃあ、怒ってんなよ!」
「なんだと!怒らせるようなことした太一が悪いんだろ!それなのに…!」

ガタッと一際大きな音を立ててヤマトが立ち上がる。
そしてぐっと拳を握り締めたと思うと、怒りよりも悲しみを滲ませて顔を歪ませた。
太一はぎょっとして恐る恐るヤマトの肩を触れようとしたがヤマトは身をよじって避けてしまう。
その勢いのままドアに向かって駆け出そうとしたヤマトに、だが、太一も引き下がらなかった。

「ちょ、待てよ!ヤマト!」






「うるさい!だけよ!」






結論から言うと、まず、京がジュースを噴き出して咳込み、賢は持っていた荷物をバサバサと落とした。
みんな、ヤマト自身さえも自分がなんと言ったのかわかっていないようだった。
そうして、その雰囲気を破ったのは他でもない。目を真ん丸に見開いていた太一だった。

「……抱けよ?」

どこか放心状態の声が小さく響く。けれど効果はあって、太一の声にヤマトがハッと自分を取り戻した。

「ば、ちが、だから、っ!」
ヤマトの顔が真っ赤に染まってゆく。白い肌が故にくっきりと映えるその色は、その場にいた全員の注目を集めてしまう程だ。
その羞恥に耐え切れなくなったのか、ヤマトは途端に頼りなさげにうろたえると、太一を振り切って外に飛び出していってしまった。廊下から響いてくる激しい物音と人の声から察するにおそらくがむしゃらに走っていったのだろう。
光子郎は未だ放心している太一に近寄り言った。

「太一さん。ヤマトさんは『どけよ!』って言いたかったんだと思います。噛んでしまったんでしょう」

と。
太一は、顔を俯かせていたがやがてふるふると身体を震わせ始め、うーと小さく呻くと次にはキラキラ目を輝かせた。

「ヤーマトー!お前からそんな言葉を言ってもらえる日がくるなんて!!」

その声量とダッシュをかけるスピードはさすがはエースストライカーか。
パソコン室の空気が一気に桃色に染まって振動する。今のシーン、漫画ならきっとハートと煙りが出ていたはずだ。
光子郎の口がポカンと開いたまま塞がらないでいると、既に廊下では2度目の叫び声が上がっていた。

「お兄ちゃんたら追いかけていっちゃった」
「アイツ、光子郎の言ったこと全然聞いてないんだから。ホンット都合のいい耳」

女性陣がくすくすと笑いを漏らす。向こうではタケルが腹を抱える程に爆笑し、大輔は綺麗なフォームで駆けていった姿に「さすがっす太一さん!」と感嘆していた。
その中で、光子郎だけがこめかみを押さえてこの後の事務処理に頭を悩ませたのだった。



だから、あの二人には手を焼かされるんですよ!もう!!



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