月夜の片倉君〜番外編〜

□失態!月夜の片倉君
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『失態!月夜の片倉君』


今宵は久方ぶりに戦後の宴。
伊達軍の連中から女中等様々な奴らが伊達屋敷に集まって宴を催していた。

俺はいつもの如く政宗様の隣で酒を飲み交わしていた。


「しっかし、こんな大きな宴は久方ぶりだな小十郎」

「そうですな。ここのところ、戦続きで息をつく暇すらございませんでしたからな。」


何気ない世間話をしているが、これが昨日までは刀やらを持って命がけで戦っていたとは思えねぇ程の平穏。

不思議と激しかった戦のことすら忘れちまいそうだぜ


「なぁ小十郎、あのlady…cuteじゃねぇか?」

「は?どの葱にございまするか?」

「……Ha?」

「ん?如何なされた政宗様?」

「お前、今なんつった?」

「あぁ、どの葱にございまするか、と…」

「…あのなぁ、俺は一言も葱なんざ言ってねぇ。ladyっつったんだ。」

「ですから葱にございましょう?」

「………葱はお前だ小十郎、お前の頭の中には戦で勝つ為の策と葱しかねぇのかよっ」

「そのようなことはございませんぞ?きちんと国と民の安寧やら…」

「だぁから、れでぃーだ、れでぃー!らりるれろの『れ』!
ladyは南蛮語で、訳すと女子っつー意味だ、OK?」

「あ、あぁ、れでぃー、にございまするか、これは失礼。
小十郎はてっきり、ねぎー、かと…」

「Ah?葱は葱だろ、しかも葱の語尾を伸ばす意味が俺にはだいたい理解できねぇ。」

「ははっ、それは確かに」


畑に通って葱の世話をしすぎているせいか?

どうしても『れでぃー』が『ねぎー』にしか聞こえてきやがらねぇ。


案の定隣に座っておられる我が主の顔を見ると呆れた表情で溜息をつかれておられる。

こうなってくるとまた政宗様があのことを言い出すに決まっている。


「ったく、お前は俺より葱のことで頭がいっぱいなのかよ」


やはりな。

野菜への嫉妬がまた始まった。
俺に寄り掛かり少し睨みをきかせた表情で見上げてくる我が主。

そのようなことは絶対にないと真正面から申し開きをしたとしても最低一日は機嫌が治らねぇ。

ん?だが…
政宗様とて今舞いを披露している女子が愛らしいと申されたばかり…

一方的に俺が責められるのは筋が通ってねぇじゃあねぇか


「恐れながら政宗様」

「Ah?まだ葱を語りきれねぇってか?」

「いえ、そうではなく…貴方様とて今あの舞っている女子を愛らしいと申されたではございませぬか。」

「あぁ、言ったな。それがどうかしたか?」

「貴方様というお方は…この小十郎というものがありながら、あのような女子に目を奪われるとは…!」

「Ah?Please wait!何でそうなる!?」

「貴方様は何時なりとも己と野菜とどちらが大切かと仰せになられまするが、それはこの小十郎とて同じこと!
貴方様はあの女子と小十郎とどちらが大切にございまするか!?」


二人ともいつもより酒が入りすぎているせいか、ここぞと言わんばかりに相手のことを暴露し続けた。

よもや、周りで賑わっていた奴らが政宗様と俺の言い合いを見守るように眺めていることも知らずに…


しばらくしてようやく言い合いに終止符が打たれた。
二人とも深呼吸をして再度酒を飲み始めたが、
よくよく考えてみりゃあ先達ての言葉の数々はあまりに女々しいものだった。


女子と俺とどちらが大事か


知らず知らずのうちに嫉妬していたということか。

この時初めて政宗様の気持ちを少し理解できたような気がした。

だが…それはそれでよかったものの、

暴露話を聞かれていたことに今更ながら気づいたが、それはもう後の祭り。


その翌日から伊達軍では俺たち二人の暴露話で話題がもちきりになってしまった。


「筆頭と片倉様って、やっぱりそういう関係だったんスね〜!」

「いやぁ、やっぱりそうだと思ってましたよ〜!」


認めてもらえて嬉しいのやら、内密にしていたことがバレて悲しいのやら…

政宗様と俺の心中は複雑だ。

だがまぁ、政宗様以外にお慕いすることは生涯微塵もねぇ、皆無に等しいことだからな。

それだけは改めて、奴らの前で公言でもしておくか。


「Hey,小十郎」

「政宗様…」

「「昨日はsorry…/昨晩は大人げなく面目次第もございませんでした…」」


同時に重なる俺たち二人の声。

二人とも俯き加減だったが、その言葉で互いの顔を見合わせ可笑しそうに笑う。


「小十郎、やっぱり俺はお前以外にはありえねぇ」

「無論、それはこの小十郎とて同じ気持ちにございますれば」

「Always I love you,小十郎」

「小十郎も日々貴方様を心よりお慕い申し上げておりまする」


双竜の絆は鋼よりも硬いぜ?



END


……………………………………………………
いつもは冷静沈着な小十郎が、ある日珍しくお酒に飲まれてしまい…という裏設定のもと作品を作ってみました(笑)
小十郎は常日頃からいろいろ溜め込んでいそうなので、こういう場でマシンガントークの如く言葉が飛び出てきたらと想像すると、少し笑ってしまいました(笑)

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