月夜の片倉君〜番外編〜

□葛藤!月夜の片倉君
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喰いてぇ

いや、駄目だ

だが、喰いてぇ…


『葛藤!月夜の片倉君』


丑三つ時、政宗様の私室に静かに毎日の如く忍び込む俺。


目的は二つ。


政宗様の愛らしい寝顔を拝見する為。

そしてもう一つは…


「今宵こそは貴方様を戴きまする、政宗様」


下心満載。

見つかれば即切腹だろうな…

だが、それでも悔いはない…


そう心に言い聞かせながら政宗様の顔に己の顔を近づける。


「ぅ……ん……」


政宗様の寝ぼけた甘い声。

この声がより一層俺を誘う。


もう我慢出来ねぇ…


何かの糸がプチンッと切れたように息あたる距離まで顔を近づける。


「こ…じゅ……ろ…」

「政宗様…」


ようやくこの機が…


「…せ…っぷく……」


…………は?

今、聞き間違いでなければ…

切腹、と…?


その瞬間獣になりそうな俺から竜の右目が一気に戻ってきた。


「まっ、政宗様っ、申し訳ありませんっ!
何卒この小十郎をお許し下されっ…!」


急いで身を引いて正座して深々勢いよく頭を下げる。


ゴンッ


勢いのあまり、畳で額を強打。
情けない程に鈍い音が我が主の部屋に響き渡る。


「っ…」


思わず顔を少し上げて額を押さえる。

やはり、俺には無理だ…

貴方様の背中を御守りすると一点の曇りもない心のままに誓ったあの日。

それなのに、私欲にかられるなどと竜の右目としてあってはならぬこと…


政宗様っ、この小十郎、やはり切腹をしてその私欲にケリをつけねばなりますまい…


眠っている主の顔を見ながら、俺の心の中は獣と竜の右目が今まさに格闘中だった。


愛らしい、喰ってしまいてぇ…

いや、駄目だ。

政宗様にご無礼を働くわけにはいかねぇっ…!


一体何がしてぇんだ、俺はっ…!!


「あ〜っ…クソッ!!!」


思わず溢れんばかりのぐちゃぐちゃな気持ちが大声となって出てしまった。


「ん…こ、じゅろ…?」


「ま、政宗様っ…!?」


し、しまったっ…政宗様の許可なくお目通りしているということがバレた…


「What are you doing,now?……なにしてやがる、小十郎」


寝ぼけ眼のまま、政宗様が起き上がられる。


「い、いえ…その…」


貴方様を喰らわんとすべく参上致した次第、などと口が裂けても言えねぇ…


「どうした、何かあったのか?」

「み、見廻りをと思いましてな!」

「見廻りだ?んなこと、連中の仕事じゃねぇか。何故お前がする必要がある」

「い、いえ、時には自らしようかと…」

「Hum?…何か隠してるだろ、小十郎」


何故です、政宗様…

何故寝ぼけておられる貴方様はそれほどまでに勘が鋭いのか…!?

それを起きておられる時に、戦にて役立てて頂けたなら、
どれほど小十郎が楽になるか…


「そ、その…」

「あ、そういやぁ、夢の中にお前が出てきたぜ」


切腹…

頭の中にその文字が瞬時に思い浮かんできた。


「さ、左様にございましたか。
して、何の夢にございましたかな?」

「お前が夜這いしてきて俺を襲った夢」


………今なら死ねる。

今すぐ死ねる、むしろ切腹させて下され政宗様ぁああっ!!!


どうして現実と夢が同じ内容なんだっ!?


何故自重しなかった、夢の中の俺…!?

現実の俺がこうも必死になって自重しているというのに…!

ズリィじゃねぇか…!!

……じゃねぇ、恥を知れ、恥をっ…!!


一人で頭を抱えて唸っていると、それを不審がった表情の政宗様が覗き込んでこられる。


「Hey,どうした小十郎。お前、どうしてそんなに分かりやすいんだよ」

「夢といい現実といい、この小十郎、貴方様にとんだ御無礼をっ…何卒お許し下され政宗様っ…!」

「…そして、どうしてそんなに馬鹿正直なんだよ」


思わず政宗様が溜息をつかれる。

ん…?

俺今何て言った…?

夢といい現実といい…?

しまった、口が滑った…


チーンと終了を告げるかの如く、俺の心の中で寂しく鐘が鳴った。


「面目次第もございませぬ…」

「まさか、夢の中の如く切腹して侘びを、なんてふざけたことぬかしやがるつもりじゃねぇだろうな?」

「…………」

「毎日言ってるだろ、切腹する暇があるなら、俺の背中を死んでも守れ。OK?」

「政宗様…」

「俺にとってお前は俺の命同然なんだぜ小十郎?」

「勿体無きお言葉…」

「それに、その、なんだ…べつに夜這いして喰らってくれても構わねぇからよ…」


政宗様…

今、何と…?

それは、この小十郎に獣になることを許可して頂いたと解釈してもよろしいか!?


「何事も遠慮はなしだ、OK?」


無邪気に微笑んでおられる。

その瞬間、俺の中で我慢してきた何かが事切れた。


「っ!?こ、小十郎っ!?」


次に気づけば、俺の下には押し倒されて髪が乱れている我が主の姿。


「それでは、遠慮なく」

「テメっ…やっぱり切腹しやがれーっ!!」


この小十郎、死んでも切腹致さぬと今決め申したゆえ、ご覚悟なされよ政宗様?



END



……………………………………………………
毎晩、政宗様の私室に来ては理性と格闘中の小十郎。
一度は思いとどまりますが、政宗様のトドメの一言であえなく理性が飛びました(笑)

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