小説

□Dragon's right eye
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『Dragon's right eye』

「梵天丸様ーっ、梵天丸様ーっ、何処に行かれたのですかーっ!?」

米沢城に響く、家臣たちの声。
この僕を探してるんだろうけど、見つかってやらないもん。

この右目が…
今は無き、この右目が悪い…

右目さえ見えていれば、こんなに隠れなくてもいいのに…

「梵天丸様」

背後から聞こえてきた聞き慣れた声。
振り返ると、優しく微笑んだ眩しい顔。

「小十郎…」

「此処にいらっしゃいましたか」

連れ戻しに来たんでしょ?
見え見えだよ…

小十郎は父上の小姓。
さしずめ父上からの命令で来たんだ…

「悩んでおられたのですね」

「えっ?」

見当違いの言葉に、ちょっとびっくり。
隣に座って、僕の隻眼に触れてきた。

「傷は、塞がってきているとお聞き致しました」

「ん……」

僕の右目を切り取ったのは誰でもない、小十郎。

「梵天丸様、この小十郎をお恨みですか?」

そんなことあるわけない。
小十郎があの時切り取らなかったら、僕は今頃両目を失明してた…
恨むどころか、むしろ感謝しなくちゃいけない…

「小十郎」

「はい?」

「僕は、皆と違う…だから、皆と一緒にいちゃいけない…」

「梵天丸様…」

そんな弱音をはいてた僕を優しく包んでくれる小十郎の大きな体…
何故だろう、ないはずの右目から涙が出てきそう

「梵天丸様、貴方様の右目は、ここにあります」

「えっ…?」

小十郎、自分を指で差して一体どうしたの?

「梵天丸様はいずれ、この伊達家の領主となられるお方。その時には、必ず右目が必要となって参りましょう。
その時は、どうかこの小十郎を右目としてお使い下され」

「小十郎…梵天丸に、ついてきてくれるの?」

「むろん、最初からそのつもりです」

どうしよう、涙が止まらない…
でも、この涙…
すごく温かい…

ありがとう、小十郎…

僕は一人じゃない…

そして、僕は今、失っていた右目を取り戻した

そう、竜の右目を…


「小十郎、その言葉、生涯忘れないから」

「承知。どこまでも貴方様と共に参りましょうぞ!」


END



……………………………右目を小十郎に切り取ってもらった後のお話。
小十郎の一言で、梵天丸の最大のコンプレックスだった右目が、一気に誇り高き右目に変わった瞬間、という設定にしてみました。
 

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