小説参

□I need you〜小十郎side〜
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気づいちゃいけねぇ感情に気づいちまった…




『I need you』


奥州内乱が一部終息し、政宗様と俺率いる伊達軍は意気揚々と奥州へと帰還した。
とはいえ、体は悲鳴をあげるほどに疲労しており、気を抜けば今にも倒れそうな状況だった。
一通り挨拶が終わり、俺は自室へ戻ろうと廊下を一人歩いていた。
そこらじゅうに傷ついた兵士たちが鋭気を養おうと薬を塗ったり寝転がったりしている。

見ていて気持ちのいいもんじゃねぇな、と内心思いつつ
主の部屋の前を通りかかった。
すると珍しく襖が空いていることに気づき俺は様子見がてら主の部屋を覗いた。


「政宗様、小十郎にございます。」

「小十郎か、入りな?」

「はっ。失礼致します」


中に入ると政宗様もまさに薬を塗っておられる真っ最中だった。
あの戦装束からは想像もできないほどの打ち身や痣の数々。
その傷の多さと深さから此処最近の奥州内乱の激しさを物語っていた。


「政宗様、よければこの小十郎がお薬を塗って差し上げましょう。」

「Really?だが、お前だって疲れてるんだ。自愛しな小十郎?」


そう言って笑みを浮かべて俺を見遣る我が主。
しかしながら、その笑顔でさえ疲労たっぷりと見え隠れしていたから、
俺は主の言葉を振り切り傍で正座をすると失礼、と一言謝りを入れてから背中に薬を塗り始めた。


「っ…」

「…やはり、思っている以上の深さ…一度医師に診せた方がよろしいのでは?」

「No problem,オレ以上に疲弊してる奴らはたくさんいる。
奥州筆頭であるこのオレがこんなことで根をあげていられるかってんだ」


まったく…貴方様というお方は、どこまで意地を貫きとおされるおつもりか。
まぁ、政宗様らしいと言えば政宗様らしいがな…

政宗様が元服なされて早数年…
あの時は小さかった背中も、今は心なしか大きく感じる。
あとは、このまま竜になり天を駆け登るだけ。
月日ってのは、案外早いものなのかもしれねぇな。


「時に政宗様」

「…………」

「政宗様?」

「…………」


数回声掛けしてみるも主から返答はない。
もしやと思いそっと覗き込んで見ると胡坐をかいて座ったままの状態で寝ておられる。


「…余程疲労しておられたのだろう。まぁ、あれだけ暴れておられれば至極当然か。」


そのまま背中に薬を塗ろうと思った瞬間、主の体がふっと動いて静かに俺にもたれかかってきた。
そんな主の体を慌てて支えつつも、その耳に聞こえてくる心地よい寝息に俺も心なしか安堵した。


「此度もお疲れ様にございました、政宗様」


そしてしばらく寝顔を見つめていると、時折寝返りを打とうと身動きする主に思わず口許が緩んでいた。


「誠、愛らしいというか綺麗な顔立ちをなさっておられる」


無意識に呟いた言葉にハッと己に返り、一気に顔がホテってしまった。


「なっ…い、一体俺は何を口走っているんだ…!?主に斯様なご無礼な口の聞き方を…!
い、いや…今は寝ておられるから口の聞き方ではなく……」


正気になれと言わんばかりに己の頬を軽く数回叩いたもののいっこうに熱が収まる気配はなく
主を支えたまま何とも言えない感情に囚われてしまっていた。

最近、何気ない政宗様のお言葉や表情に一時俺が竜の右目であることを忘れてしまうことがある。
それが何故だかは分からない。
幼き頃よりずっと政宗様のモリ役として務めてきた俺にとって、その感情が一体何を表しているのか、
いまだによく分かっちゃいねぇ。
ただ、それは竜の右目として、腹心として、一人の部下としてではないことは確かだった。
だとすりゃあ…こいつは、まさか…


「い、いや、そんなはずはねぇっ…そんなはずはっ…!」


それは違うと心に必死に唱えるようにして言い聞かせる俺。
だが、体と心は案外素直で、熱を上昇させるばかりだった。


「…こ…じゅろ……」

「!?ま、政宗様っ…!?」

「…………」

「……なんだ、寝言か…」


一瞬心臓が止まるかと思うような主の寝言という思わぬ奇襲。
そして、平常心に戻るどころかその寝言でますます拍車がかかった俺の心身を最早制御することは
不可能だった。


「…政宗様…何卒お許し頂きたい。
この小十郎、貴方様の御心を裏切ったやもしれません。
あの日、あの誓いにかけて貴方様をお守りし二度と後悔はさせぬと、
心に硬く誓ったにもかかわらず…俺は……」


そう、俺は……


「貴方様を…一人の男として、お慕いしておる気持ちに気づいてしまった。
もし貴方様が気にくわぬ時には、この小十郎、いさぎよく切腹致しましょう。
しかしながら、貴方様にそれを悟られるその日までは何卒……」


この心を持ち続けること、お許し頂きたい


口に出しては言えなかった。
だが、それでもいい。
これが例え最期の告白になろうとも俺は悔いはねぇ

そっと重ねたその唇に、
微かに政宗様の口許が緩んだような気がした。




END



……………………………………………………お久しぶりの小政ネタです!
いやぁ、長かった…お待たせしました!
このお話は小十郎が初めて筆頭に自分のこの想いが恋であるということを悟った時のお話です。
政宗様よりも先に恋というものに気づいてしまった小十郎が、それを上手く隠しつつ、それでも時に葛藤しつつ日々を過ごしていく。
そんな切なくも甘い物語が小政の始まりだったらいいなと思って書いてみました。

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