higurashi

□夢夜き編
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眠れない夜に、眠れない夢を
悲しい朝に、忘れられぬ思い。






**  *








「ん・・・」




pm11:08

今日はいつもより寝つきが悪かった。10月の半ばなのだから、暑いとか寒いとかいったことはない。今日の部活は鬼ごっこだったし、疲れていないこともない。なのに、本当に酷く寝つきが悪かった。
開け放った窓から、少し冷えた風が身体を包む。風は部屋を包み、一瞬にして違う次元に連れて行く。それと同時に、自分の身体をグッと布団にうめる。


(・・・よいしょ)


重い身体を、実にゆっくりと起こす。真っ暗な空間に独りだけの私。いつもこの部屋に慰めてもらいながら、過ごしているというのに・・・いまは、この部屋のすべてが、とても怖い。暗闇に、すべてを持っていかれそうだ。
そうして起こした身体を、さらにぐいっとベットから投げ出す。ふらつく体を窓にもっていく。相変らず風は冷たい。部屋の風邪が遠のいていくように、外に出る。星達が、いっせいに踊り始める。


窓を閉めるのが惜しい。閉めると暗闇から逃げるすべを失う。夜空が私を見捨てる。背後の闇が迫る。


「・・・ちょっと散歩しようかな」


口に出す独り言。寝つきが悪いのを言い訳に、暗闇から逃げるように玄関を飛び出す。ちっぽけな私。





   **






とりあえず、カーディガンを着よう。パジャマの上からフワッと白く舞う。
それは、私を暖かく包んだと思うと、風がまた奪っていく。さらに、厚い雲に覆われて、月光はほとんどあたらない。



「はぅ〜、寒いよう〜」


オレンジの髪をなびかせながら・・・正確にはなびかせられながら、彼女・・・―自称、竜宮レナは靴音をわざとらしく鳴らしながら、いつも通っている通学路を歩いていた。
外も、部屋と同じ暗闇に包まれていた・・・でも、外の暗闇は恐ろしくはなかった。そればかりはフゥと安堵をつくぐらいだ。なんでだろう・・・大きな木の影はお化けみたいで、人気のない道は地獄に続く道みたいなのに・・・両足はとまらない。
とまらない・・・いや、とまることを許さない。とまると来る。自分は、きっと二度と帰ってこれない気がする。


眠れない夜。ひとりっきりの時間を睡眠で過ごす私にとって、ひとりっきりの時間を目を覚ませてすごすことは、なんともいえない孤独感に襲われ、やりすごせなくなる。そんな時は、決まって会いたい人がいる。決して自分をひとりにしない。いつもお日様みたいに明るい人。

そして・・・私の好きな人。
その人は、私が会いたいとき現れてくれる。まるで私の透明の声を、聞いてくれていたかのように・・・―


カラカラカラ


自転車の音と、聞きなれた声が聞こえてくる。





「・・・え、レナ?なのか?」

「はぅ?け、圭一君?」







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