bakemono
□儚さ、愛しさ
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○月××日午後6:32
まず、一ヶ月ぶりに会った彼女の一言めは
「生きてたの」
と、あまりにもざっくりとした言葉だった。
・・・儚さ、愛しさ・・・
一応僕らは高3という、遊びたい盛りに勉強詰めになる学年であり、もっとも不憫で残酷な一年間を送っているのだ。
彼女が・・そして、密かに僕も目指す大学は、ハイレベル。彼女・・・―戦場ヶ原ひたぎでさえ、死ぬ気で勉強をするようなところである。
戦場ヶ原ひたぎが、死ぬ気で勉強するなら。僕は、死んで勉強するべきだと思う。
なので、彼女が一ヶ月夏期講習の勉強合宿に行っている間、僕は、机の年輪の位置や数さえ把握しているほど、勉強したのだ。
そして、その合宿から帰ってきた彼女を、僕はバス停まで迎えに来たのだった・・・―
「私が居ない間。勉強さぼらなかった?夏休みって言うのは、勉強のスタートじゃなくてラストスパートをかけるところよ。テストで90取れてもおかしくないほど、勉強したわよね?」
「90か・・相も変わらず無茶を言うな・・。って前の僕なら言っていただろう。」
「なに?その偉そうな口ぶりは・・。この一ヶ月で習得したのは、その言葉遣いなのかしら?」
「いつ僕が、偉そうに言ったんだ?」
「・・・阿良々木君は、昔も今もないのよ。なのに前の僕って・・・」
「まぁそれは、こんどの中間テストで証明してやるよ。」
調子乗ってたら死ぬわよ?と、いかにも未来を見透かしているような言い方をする彼女を、僕は深く目に焼き付ける。
そんな僕に、また「なにをじろじろ見ているの?そんなに私、可愛くなった?」と真面目に言う彼女に対して、愛おしさを感じる。
一ヶ月前より変わったところ、それはなにより気持ちなんじゃないか・・・?
「とりあえずさ、もう日も暮れるし・・・明日話そう」
「イヤよ。一ヶ月ぶりに会えたのに。阿良々木君は、帰りたいのかしら?」
「いや・・・帰りたくはないけど・・」
「けど?なに?」
「日が暮れたら危ないから。」
「阿良々木君がいるじゃない」
・・・そうですけど。
「・・・―なら、どこいく?」
「デート・してくれるの?」
「しなきゃ、かばんの中の筆箱のシャープペンシルが凶器に変わるだろう?」
「やっぱり、言葉遣いにとげがあるわ。」
「お前には言われたくない」
僕は、彼女の細く白い腕を、優しく握った。
「行こう。」
*