「……さっきの男、誰?」
雅知な少し俯きがちに、静かに声を落とす。
「なんか知らない人。」
無関心そうにそう言うと、ちらりと彼を見てみる。
すると、その表情は予想通り。
「……なに半泣きになってんの。」
見上げなければ顔が見えないほど大きな身長とは不釣合いに、彼の瞳は若干潤んでいて子供のように見える。
「だって、相手は知らない男だよ。」
「うん。」
「ゆりちゃん普通に話してたよね。」
「うん。」
まあ、話し掛けられたから仕方なくだけど。
「俺も男だよ?」
「? うん。」
何が言いたいんだ?
「…普通に話してくれたっていいじゃんか。」
あ、そういう結論。
雅知が目に溜まった涙を零すまい、と必死に耐えているのが声音で伝わる。
そんな彼をもう一度見ると見事に目が合ってしまって、思わず笑ってしまった。
「ゆ、ゆりちゃん…?」
急に笑い出した私を、雅知は目をパチパチさせながら困惑する。
「いや、だって今普通に喋ってたじゃん。」
「あ……」
私がそう言うと、雅知は きょとんとした顔から途端に嬉しそうな顔に変わる。
うわあ。この人ほんと見てて飽きない。
そう思って ぼーっとしていると、突然何か右手に違和感を感じた。
「帰ろう、ゆりちゃんっ!」
雅知がそう言って歩き出すから、私も釣られて手を繋いで帰る姿勢になってしまって。
ああ、単純過ぎるだろこの人。
でも手を振り払うのも面倒だし、何だか雅知も嬉しそうだし。
そう思いながら、彼に引きずられてる状態から自分の意志で歩こうとする。
まあ、たまにはこういうのもいいかな。
ふと足元を見ると、凹凸に並んだ不格好な影が一つに繋がっていた。