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男は鬱蒼と生い茂る林に囲まれた古城に一人で暮らしていた。
とはいっても林は街と隣接しており、孤独ではない。
毎夕よく馴れた愛馬で街に繰り出しては、バーや劇場、カジノ等で夜明け近くまで過ごす。
古城などは寝るための場所でしかないので、清潔でさえあればいい‥
男が城をあけるとロボットが掃除をはじめる。
世間にはまだ出回っていない最新式のヒト型家政婦ロボットで、男にはメイドを雇うよりもずっと快適な暮らしが約束されていた。
しかも、ロボットは男が理想とする女性そのものに設計されており、とても美人だった。
整った顔立ちと役者のような立ち振舞い‥
確かな血筋と資産に恵まれている男に言い寄る婦人は山ほど居たが、
家事用ロボットにも劣る容姿をした者との結婚など
目の肥えた男にはとても考えられず、すべて断り続けていた。
そんなある日、男の家に泥棒が入った。
最新のセキュリティシステムを組み込まれているロボットは即座に愚かな犯罪者を捕らえ、
荒縄で縛り上げ、人外の怪力で担ぎ上げると、男の寝室に運びこんだ。
警報に起こされた男は手に拳銃を持ち、待ち構えていたが、泥棒を一目見ると考えを改めて銃を置いた。
ロボットの傍らでぐったりと伸びて気を失っている泥棒は、ボロを纏った少年だったのだ。腕にはしっかりと古城の窓辺に飾られていた壺を抱えている。
貧しいのだろう。気の毒に思った訳ではないが、殺すのも警察に突き出すのも気が乗らなかった。
「おい、起きろ」
柔らかい亜麻色の髪をぐいと掴み、顔をあげさせる。
薄く眼を開いた少年の姿に男は狼狽した。
少年はロボットによく似た、ロボットよりも美しい顔立ちをしていた。
「金が無えのか?」
「‥‥」
野生の動物のような紅い瞳がジロリと男を睨む。男は少年を見下ろしたまま口端をあげた。
「稼がせてやる」
「なんでィ、そりゃ…」
「テメェのその身体、買ってやるよ」