バタバタと数人が廊下を走り去っていく。ゲラゲラと笑う声。

ヒソヒソと漏れる囁き、あふれかえる噂、噂、噂。

破れたカーテン。

ベランダに向かって飛んでいくゴミを眺めながら山崎は思う。

まあたいした問題じゃない。ガラスはまだ割られれちゃいない。

これがイマドキの都立高等学校だ。
やや学級崩壊気味、な。

これでも授業中はクラスメートの半分がノートを開いてるんだから、まだマシだろ?

例えそれが白紙で、ゲームにメール、馬鹿トーク三昧でも。


もし

問題があるとすれば‥


担任が

「アイツ来ないって」
「なんで?」
「3組の長谷川とホテル」
「ギャハハハッ」

不登校だとか。


イジメが

「ね〜お金貸してよ新八く〜ん」
「俺達親友だろ〜?」

あるとか。


この辺りであって。


なかでも

最悪なのは


きったない字で
黒板にでかでかと書かれた、下品な下ネタ。


“ヤりたい、犯りたい、犯らせて、総悟くんvv”


これがチョークの字だってんなら誰かしらが即消すんだけど。

ご丁寧にも赤いマジックときたもんだ。


誰だろう。ホントにバカだな。

なにがあっても、この手の類いだけは禁句なのに‥。

 
「おはよう」

「だからさ、新八く‥」

メキッ

あ、今のはクラスメートが挨拶がてらに隣に居た奴の肩叩いただけです。

折れてそうだけど。

「ねえ君、日直だろ?誰が書いたか知らない?」

明るい笑顔を新八君に向けながら、肩を押さえて悶絶する男子を、蹴る。

ガシャンッ

ああ、ついに窓が‥

認めるよ、ウチは荒れてる。荒れまくってる男子高だ。


こいつが来てから、特に派手に‥。


先月転入してきたアイドル顔した美形沖田兄弟の兄の方、神威。
病的な喧嘩好きでブラコン。

弟の総悟を見たことはないが、爽やかな風貌のわりに性悪らしい。
それ以外はわからない。


ガラスまみれ血まみれな上半身で窓枠にぶさがってる男子。
一緒にカツアゲしてた野郎もいつの間にか、隣の枠にぶらさがってる。

ああ、硝子二枚目。

調子乗ってる奴、神威は嫌いらしい。
いや、神威本人も相当なんだけどさ。


「で、誰だった?」
「そ‥
「ハーイ、俺でぇ〜すっ」

アホみたいな抜けた声が新八君の声を遮る。
 

ガタガタとわざとらしく椅子机を倒しまくりながら、どかどかクラスに入ってきたのは
滅多に姿を見せないが、顔を出せば暴れる輩。

確か、ボクサー志望だっけ?

「困るな。ヒトの弟勝手にオナペットにしてくれちゃ」
「ああん?なに僕〜?17にもなってぇえ〜〜ブラコンでちゅかぁあ?」

ガシャッンッッ

うわ、飛ぶ〜。

ウェイトが軽すぎたねアレ。ベランダ突き抜けて花壇に落下しちゃったよ。

よかった、ウチの教室二階で。


また警察来るとこだった‥


虫でも弾いたみたいな顔した神威が、新八君に向き直る。

「自習中?」
「はっはい、多分‥」
「じゃあ暇だよね」


纏う空気は異端、異質、異様だ。

眼が集まる。
恐れ、嫉妬、期待、憧れ。


静けさのなかに、神威の声が響く。


「不愉快だなアレ」


その日はクラスの皆で黒板を掃除した。


「ジミーってさ」
「え?」
「いつ転入してきたんだっけ?」
「はじめから居るよ」
「へえ‥忍びみたい」
「‥‥」


なんでだろう‥

なんでだか、

神威が息をしていない気がしてるのは、俺だけなんだろうか。

 

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ