文
□少年O
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貧しかった。
家はボロボロのプレハブ。
父親は俺を見捨て、滅多なことでは帰らない。
母親はたまに家賃を払うためだけに来て、またすぐに消えた。
「月末だね。今日おばさんいる?」
机のランドセルに頬杖ついた神威が、わざとチャイムに重ねていう。
「あー別に、あがれよ」
どっちでもいいぜ。なにを見られようが別に。
「ゴムもってくれば」
ヤらせてやるよ。そう含んだ言葉はシカトされて、俺もしつこくは言わない。
セフレお断りの態度。突き詰めるとめんどくさいから突っ込まない。
チャイムがやむ前に黙ったのに、隣の席の山崎は耳がよすぎるのか顔を赤くしてうつむいてる。
気づくやつは気づいてるなとぼんやり思いながら、一人残らず俺に弱味を握られてるクラスメイト達を見渡していい気分で欠伸をする。
この箱の中の支配者は俺。
ゾクゾクする。
怖いものはなかった。
「マジでか」
嫌がらせをされた。
自宅玄関の前。色あせた道路に「社会の底辺入口」の文字。
ど派手な赤ペンキで、でかでかと。
ショックにさあと血の気がひいた俺の肩に、神威がするりと腕を回しながら囁く。
「気になる?大したことじゃないよ」
「打たれ弱いの知ってんだろぃ」
俺は人に害を加える側の人間で、害を加えられる側じゃないはずだった。
子供の夢は無慈悲に崩れた。
「総悟のせいだよ、コレ」
神威ののんびりした声に胸の奥がムカツク。
(やりやがった)
神威はその気になれば俺になにしてもいい。
食物連鎖の一番上にいる本物の王者は神威だから。
(マーキングのつもりか?勘弁しろぃ)
「カップヌーボルのカレー味がいい」
あがりこんだ神威のためにやかんで湯を沸かす。
「テレビみてろよ」
「またいらないことしてる?」
「わかんねーじゃん」
念のために風呂に火をつける。据え膳どーぞと、ポーズだけはとらなきゃまずい。そーゆう「金額」なのは知ってる。
「その気になんかならないくせに」
「 ?!」
テレビをみてた神威が、音量をマックスにする。
死亡した…
死亡した…沖田夫妻は…
流れる両親の名前。
デモに参加してた?
流れ弾にあたった?
ぐいっと神威に腕を掴まれて、テレビの前にこけるように座る。ダセェ。頭がおいつかない。
俺今なに聞いてんだ?
なに観てる?
「ついてこれない?忘れちゃった?」
クスクス笑い声。
忘れた…?俺が?なにを?
「うちにおいで、そうご」
首の壊れた人形みたいに、こくりと頷く。
「俺が助けてあげる」
だれから?
なにから?
オマエからは誰が助けてくれるの?
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