坂田

彼方の声
1ページ/1ページ


いつ何時、会えなくなるか分からないから、敢えて想いは告げずにいた。


それで良かったと思う。だって、今こうして彼が居なくなった世界でも、私は呼吸を続けることが出来ているのだから。


もしこれが愛し合っていた二人なら、呼吸すらままならないほど苦しかったに違いない。


「・・・・お疲れ、銀時」


乾杯・・・・そう付け足して、私は彼の墓石にお酒をかけてやった。それから自分の分も用意して、ゆっくりとそれを口に含む。

・・・・美味しいのかは分からない。だけど彼が好きだと言っていたから。最期くらい、付き合ってやろう。


「バーカ、そんなんじゃ足んねェよ」


今にもそんな声が聞こえてきそうだ。また彼がひょっこり、目の前に現れるような気すらしてくる。

そんなことを思いながら、私は目を閉じたままお酒を口に運んだ。

今目を開けたら、全て零れてしまいそうだ。

それだけはいけない。銀時と流す涙は、苦しいくらい笑って、流す為にある。

それならば、想いを寄せていたあんたが消えたこの世界でも、私は笑って笑って、泣いてやる。

それで、約束を守れるなら。


「ねぇ銀時・・・・本当は、私だって泣きたいんだからね」


それを、あんたが泣くななんて言うから・・・・全く、面倒な約束をしてしまった。

だけど破ったら、呪われそうだしね。

うん、呪い殺されるよね、あんたに。何かそれは悔しいから、約束を守ることにするよ。



声には出さず、心の中で気持ちを伝え、私は目を開いた。もう、行こうと思って。

だけど突然目の前に現れた奴の姿に、私は驚いて身動きが出来なくなる。

墓石にどっかり座って、何も言わずに微笑んでいる、墓の主。

何やってんのと声を発するより先に、我慢していた涙が零れそうになって、言葉に詰まってしまう。


これは私が見ているただの幻覚かもしれない。だけど、それでもいいから、伝えたいことはたくさんあって。

言葉にして伝えたいのに、声は喉の奥でつっかえて、中々出てきてくれない。そんなもどかしさに一人苦しんでいると、彼はふっと微笑んだ。


それを見た私は、いったい何がしたいんだと、哀しみから一変して怒りが沸いてくる。

いきなり居なくなって、またいきなり現れて、いいかげんにしろ馬鹿天パ。


「・・・・嫌な、奴」


漸く出てきた言葉に、皮肉を一杯詰め込んだはずなのに、思いのほか弱弱しくなってしまった。

そんな私の声を聞いてか、銀時は一度目を瞑ると、そのまますっと立ち上がった。


今度は何だと顔を顰めていれば、銀時は目を開き、まっすぐ私を見つめてきた。同時に目頭が、熱くなる。

ヤバイ、今度こそ泣きそうだと己の限界を感じたとき・・・・

銀時の口が、ゆっくりと動いた。


「      」

「・・・・」


確かに口は動いているのに、声が聞こえてこない。言葉が音として、私に伝わってこない。


・・・・嗚呼、そうか。彼はもう、ここに居ないから。姿は見えても、彼の声はもう遥か遠く・・・・声も届かないほど遠い場所に、今彼はいるのか。

もう二度と、彼の声を聞くことは出来ない・・・・それはとても、哀しいこと。


・・・・でも、大丈夫。


「・・・・上等よ。精々私が約束破らないよう、あの世で見てるといいわ」


ニッと笑って、銀時にそう告げれば、銀時も満足したように微笑んだ。

それを見た私は、ゆっくりと目を瞑る。

・・・・ほら、こうすれば、いつでもあんたの声を思い出せる。人を馬鹿にしたような声も、楽しそうな声も、寂しそうな声も、全部私の耳に、残ってるから。


・・・・次に目を開けたときには、もう銀時の姿はなかった。だけど不思議と、寂しくはない。

だってあいつは、これから私が約束を破らないか、ずっとあの世で見張ってるんだから。

・・・・言いたいことは、ちゃんと伝わったよ。



彼方の声



「約束破ったら、デコぴん100回な」

「・・・・上等よ」



企画JOYFES様へ提出
ありがとうございました



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]