むしゃむしゃ

□恋、束縛
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「え、なんでいんの」


お風呂から上がり、部屋に戻ると、そこには当たり前のように魔人があたしのベッドに腰かけていた。


「我が輩を待たせるとはいい度胸だな、かおり」


ギラっとこっちに向ける目はなんだかいつもとは違って力が弱い気がする。


しかも、ちゃんと読んでいたのかはわからないけど、その手にはネウロには似合わない…似合うことのないであろう、少女漫画。


しかもあれはあたしのお気に入りの《恋する力士》じゃ…!


「…いや、約束も何もしてないのに勝手に待たれて文句言われてもこ…ぶっ!」


あたしが言葉を言い終わる前に、あたしの顔はネウロの手で挟まれた。


「かおりよ…そんな口の聞き方で許されると思っているのか?」


「うや〜たひゅけて…」


ぐいぐいと力を加えて挟んでくる手を、なんとか引き離そうともがくけど無意味。


扱いが弥子ちゃんに近付いてる気がする…。


「ふん、まあいいだろう。」


パッと手が離されたかと思うと、いつの間に戻ったのかさっきと同じようにベッドに腰をかけていた。


さすが魔人…


「今日は貴様に聞きたいことがあって、我が輩自ら出向いてやったのだ。」

「へー。それはそれはどのような質問なのでしょうか」


バスタオルで髪の毛をわしゃわしゃしながら返事をし、ネウロの隣に座る。
髪の毛とバスタオルの隙間からチラリとネウロの様子を伺うと、やはりいつもと少し違うようだ。



「これなのだが」


ん?と見ればそれは先程からネウロが手にしていた《恋する力士》。


「これがどうかしたの?」


ネウロの伝えたいことがさっぱりわからない。



「この男が言っている『お前に恋をしたせいで、ご飯が1日2合しか喉を通らない』とはどういうことだ。」


「???恋をして胸がいっぱいだから食欲がわかないってことじゃない?でも1日2合食べりゃじゅうぶっぐえっ!」


いきなり首をガッと、こう…ガッと鷲掴みにされたせいでまた最後まで喋れなかった。



「貴様にこんなことを聞くのは、我が輩にとって人生の汚点、更には耐え難い屈辱だが仕方がない…答えろナメクジよ。恋をすると食欲がわかなくなるものなのか?」


「そ、それは人それぞれじゃないのかな。」


人生の汚点てはじめて言われた…


「ではもうひとつ。」

「う、うん…」


「貴様の行動ひとつひとつが気になって、考えたくもないのに貴様のことばかり考えてしまう。おかげで謎の気配も感じとりにくい。我が輩としてはいい迷惑なのだが…これは恋というものなのか?」


けなされてんのか、なんなのかわかんないんだけど…


「それは、恋かもしれないし憎悪かもしれないし。うん、わかんない…とりあえず手、離して。」


「…チッ」



ネウロの手があたしの首から離れたのはいいけど、なんだかネウロが辛そうに見える。


でも今のじゃ…


「ごめんね、ネウロ。今のじゃ恋なのか憎悪なのかあたしにはわからない。」


だけど…



「あたしはもし憎悪だとしても嬉しい。」



ネウロの中でそんな大きな存在になれたことが。

***
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