展示用
□丑三つ時
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「あんま遅くなんなよ。眠ぃし。」
「鍵だけ開けといてくれりゃいーっスよ。」
「泥棒と間違えて枕投げても文句言うなよ。」
「そしたら投げ返しますから。」
軽口をきいているが、お互い相手が不都合でないようにしたいのだ。
故に彼がそれを思い付いたのも、当然の帰結だった。
「だから、今度から開き直って友達ん家に泊まっちゃおっかなー、なんて考えてんスけど。」
場違いだったのは、過剰に反応した武巳の方。
「……駄目、だ……。」
「……へっ?」
深夜らしい、息が詰まる程の静寂をふと実感する。
すぐ傍に、壁の向こうにたくさんの人が居る事を忘れそうな、密やかで冷たい、寂しい空虚。
「いい、から……。」
震えそうな声が、制御が利かなくて却って大きくなった。
「どんだけ遅くなっても、起こしていいから……。」
さすがに涙は流したくなくて、ぐっと拳を固めた。
「だからっ………帰ってこいよ……!」
日付が変わっていても、丑三つ時でも。
窓を叩きまくっても、管理人や隣室の生徒に怒られても。
翌日が1限でも、愚痴や泣き言を言ってもいいから。
帰ってくるなら、それでいいから。
もうあの頃には戻れない。ならばせめて、今の平穏を失わぬように。
残された時間の少なさを、なんとなく、予感しているから。
END