展示用

□丑三つ時
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 痴話喧嘩をしたと、つまりはそういう話をスズメが鳴くまで続ける必要性は、同じだけ時間をかけても決して見付けられないだろう。
 丑の刻参りで名前を呟いたら呟いただけ効果が出るとしたら、奈々美は確実に呪われ死にしたに違いない。
「奈々美はなーんも分かってねーんだ!」
 1つの愚痴にひたすら名前が繰り返される事もあった。いくら武巳でもそんな小説は書くまいと呆れる程、文章が壊滅していた。
「だって奈々美は奈々美なんだぜ!?」
 とか、訳の分からない事を何度も何度も言っていた。
 おかげで英語は宿題を提出するだけで意識を手放し、その後も散々な目に遭った。
 元凶は放課後になってもまだグースカいびきをかいており、首を絞めてやりたくなった。
 その頬が濡れた跡でカサカサになっているのに気付いてしまうと、1発叩くくらいしかできないのだが。
「……こら、大木さん心配してたぞ。」
「にゃにゃみぃ……。」
 寝言が泣き言で思わず苦笑する。夢の中に逃避していないで、さっさと仲直りすればいいのに。
 お騒がせで幸せ者で、どんなに迷惑をかけられても見捨てられない大切な友達。
 入学する前に、誰より早く親しくなったルームメイト。





 その彼は、もうこの部屋にはいない。




 

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