展示用

□地下室
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「呼んだかね?」
 詠子の数段上を行く愉しげな笑みが、闇の中に白く浮かんだ。
 先程まで空いていた椅子に、神野はずっとそうだったかのように座っていた。
「神野さん、あなたの仕業でしょ?」
 唖然とする武巳達に構わず、詠子は神野の向かいに腰掛ける。
 神野はくつくつと喉を鳴らした。
「仕業という言い回しは不適切だと思うがね。君は自ら『私』についてきたのだから。」
「でも、誘ったのは神野さんじゃない。」
「『私』はそこの少女とは違い、人を攫ったりはしない。当人が望まない限りは。」
 枝のように骨張った手で示され、あやめがビクリと跳ねる。
「私がここに来るのを望んでたって言うの?」
「少なくとも“彼ら”に会えた事を不幸とは思わないだろう?」
 辺りの闇よりも暗い夜色を向けられ、武巳と稜子も思わず体を強張らせた。
 それに比べれば、傍目には自分達と変わらぬ澄んだ瞳に見つめられる事は、むしろ安心を得られた。
 詠子は武巳達を眺めると、拗ねたように軽く顎を引いた。
「素直じゃないね、神野さん。」
 と、今まで溜めていた分を解放するように満面に笑みを作った。
「ねぇみんな、一緒にお茶しよう?」
「へ……?」
 詠子の言葉は魔法の呪文のように、ティーセットと椅子3脚をその場に生み出した。
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