展示用

□真夜中の電話
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 あっという間に辿り着いたそれに、覚悟を決めて手を伸ばし……





 「―――よせ。」





 その手を、後ろから押さえられた。
 命令に従った訳ではなく、けれどもその声に動きを止めると、ランプが留守電アリを知らせるものに変わっていた。
「っあ……。」
 閉じられない口が、文章以外を発する事で動揺を表現する。
 その、声は。
 今すぐ振り返って顔を見たかった。
 だが、体はまるで拒絶しているかのようにピクリともしない。
 瞳と唇を震わせ、何とか言葉を掛けようとする。しかし脳が単語をまとめられず、やはり母音を発するだけだった。
 そうしている内に、後ろから伸ばされた手が脱力した。
「まっ……!」
 すると、まるで全ての拘束から解放されたかのように身を翻せた。
 暗さに慣れた目が捉えたのは、闇色の空気と自分の部屋。
 黒ずくめは、紛れてもいなかった。「…………。」
 ガクリ、と膝から床に座り込む。肌寒い真夜中だというのに、活性化した心臓のせいでうっすら汗をかいていた。
 反射的に拭おうとして、先程まで触れていた手の感触を思い出す。




「………恭の字……。」



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