展示用
□真夜中の電話
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トゥルルルルル、
トゥルルルルル、
飽きもせず、今夜も掛かってきた。
いつも通り留守電が応答し、電子的ノイズの混じった沈黙が広がってゆく。
一体、いつまで続くんだろう。唐突に始まった習慣は曜日を一回りしていた。
ふと、悪しき記憶が甦る。あれはFAXだったが、意志に拘わらず毎夜待ってしまうところは似ている。
だから、イタズラとして対処する気にならないのかもしれない。
もしくは―――期待、しているとか。
『…………、』
かすかな変化に思わず起き上がる。今、何か呟かなかったか?
『…………。』
かくれんぼで鬼が振り返ってしまったかのように、素知らぬふうに沈黙を取り戻す。
しかし疑惑が生まれた以上、高鳴った鼓動はなかなか静まらない。
……受話器を、取ってしまおうか。
あんたは誰だと、尋ねてしまおうか。
開けっ放しの口が浅く息を吸い、深く吐き出す。酸素が足りなくて頭がクラクラしてきた。
ドクンドクンと重たげに脈打つ胸元を握り締め、ゆっくりと布団を払いのける。
冷たい床に素足を下ろし、あえて普段のように電話へ歩み寄った。