展示用

□貴族の肖像画
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 うっとりするくらい繊細なタッチに、不釣り合いな程の豪奢な背景。
 まるで貴族の肖像画みたいだと、範子は思ったままを口にした。
 と、筆に絵の具を足していた彼はそのまま手を休め振り返った。
「お姫様っぽい?」
 屈託無く笑う彼に釣られたりせず、範子は淡々と感想を述べる。
「背景がやけに豪華だなあ、って印象です。」
「こんな華々しい背景も引き立て役なんだ、って示してるつもり。」
 確かに、メインの彼女はかなり美しく描かれている。実物よりも……とは彼にも彼女にも悪くて言えないが。
 もしかしたら、彼の目にはまさしくこう映っているのかもしれない。同じ絵を見ても感動するかどうかはその人次第で、一概に正否は唱えられないものだ。
 この絵に関してだけ言えば、メインが背景に負けているとは思わない。だから絵としても成立している。
 細やかで大胆で、素敵な絵だ。何より……


「愛情に溢れてると思います。」


 そう言うと、彼と彼女は揃って声を上げた。
「範ちゃん! からかわないで!」
「やっぱそー思う!? 俺の奈々美への愛は無限大だって!」
「言ってないからそんな事! てか貴族って……どんな絵描いてんのキミは!」
 少し離れて座っていた奈々美は立ち上がり、調子に乗り始めた沖本に掴みかかった。
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