展示用
□赤すぎる夕暮れ
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オーケストラ部や演劇部と違い、部員も少なく設備もさほど必要としない文化部が集まっているクラブ棟。
そこを使用している部の大半が、やはり人数が理由だろうが、活動も上下関係も緩やかだ。
ご多分に漏れなかった文芸部も、読書をしたりお喋りをしたり、居眠りをしたり。最早部室という名の休憩室である。
活動終了時刻も決まっていないから、銘々好きな時間に帰宅する。最高は下校のチャイムが鳴るまで。
そんな時刻まで残っている部員は少ない。寮生には夕食があるし、最後の者は戸締まりをしなくてはならないから。
故に俊也が本を閉じた時、室内に居たのはあやめだけだった。
「…………。」
何をするでもなく、ぼんやりとパイプ椅子に腰掛けたあやめは、俊也が見つめている事に気付かない。
髪、長いななどと今更な感想を抱きつつ本を鞄にしまうと、ようやく顔を上げた。
「帰るか。」
静まり返った狭い部室にも響かない声と共に、コクリと動作での了承を貰った。
『詩』を紡いでいる時はあれ程堂々としているのに、どうして会話はいつまでも遠慮がち――と言うか、脅えたふうなのだろう。
俊也だけでなく、空目や皆に対しても同じ態度なのは知っている。慰めにもならないが。