展示用

□黒髪
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うっすら暗いながらも穏やかな陽射しによってつい微睡みたくなる午後の部活の時間。
何気なく。
恭の字の背後に回り込んで髪を梳いてた。




今日は稜子、近藤が近くに出来た本屋へ、村神はまだこちらに来ていなくて、あやめはそんな村神の様子を見に行っていた。
その為に部室には恭の字と私の二人だけで、喋るわけでもなく黙々と本を読んでいた。

ちょうど読み終わった本を鞄に戻して少し目を休めさせようと眼鏡を外して窓へ近づいた時。


何となく。
ただ理由もなく、恭の字の髪を梳いてみたくなった。


本を読んでいる恭の字には悪いかな…なんて考えがいつもは率先して出てくるのに今日の私はそれを思いつきもせずに彼の背後に回り込んで手櫛で髪を梳く。


するといきなりの感覚に多少違和感を感じたのかいつもと変わらぬ無表情でありながらも疑問を持たれた。



「いきなりどうした」

「え、…あ。あれ、ごめん。本当に梳くつもりは無かったんだけど……」



ぱっと梳く手を止め眉を寄せる。
本当に梳くつもりは無かったのだ。私の中ではこんな感情を理性で留めていたはずなのだから。

ただ単に、夕闇に染まりつつある空に照らされてもなお漆黒である事を疑えない程の黒さの黒髪に触れてみたいと、そう思っただけで。

ただ、それだけの事を思っただけなのに理性より感情が先走ったなんて不愉快で仕方がない。


……きっと、最近の私の思考が悪いのだ。
この、理性で必死に抑えないと溢れだしてしまいそうな感情が悪いのだ。




“消えてしまうのではないか”


そんな考えが頭によぎって離れない。

存在している事は分かり切っているのに、だからこそ居る事を確かめたくなる程に彼は黒くて儚げで、その歪な程の黒さに恐怖があった。
夕闇に照らされても黒さを絶対に掻き消されないでそのまま闇に融けてしまいそうな、そんな気配に不安があった。


だから、そんな彼の黒髪に、触れて、確かめて、安心したかった。



そんな不愉快で馬鹿げた理由を言えるわけもなく、ただごめんと謝る。

もう確認は出来た。不本意だけれど安心もした。
少し名残惜しい気がしたけれど、その気持ちも理性で留めて手を引っ込めてそのまま窓へ歩み寄ろうと踵を返した時。



「もう終わりなのか?」

「……え?」

「もう梳いてくれないのか?」


その言葉を聞いて、勢いよく恭の字を見る。

こちらを向いた恭の字はやはり無表情で、感情は読み取れない。
けれどどうしてだろう。なぜか優しさを見出だした気がする。
…きっと、幻覚だろうけど。



「…しょうがないな」


またさっきと同じように苦笑して、恭の字の髪をゆっくりと梳く。



不意に、目頭が熱くなる。
“泣きそう。”
そう自覚するのも嫌で、泣きたくないと理性が言っている。
だから感情に呑み込まれないように静かに頭の中は理性に冷却されていった。



―――せめて村神とあの子が来る時までは触れさせて下さい。


その時までには、完璧に理性で固めた私を演じるから。



END
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この度は参加させていただきまして有難うございました!
Missingはもう大好きで、この企画に参加出来てもう満足です//

黒髪というお題でしたので貞子だとか思ったのですが…何故だかこんなお話になりました(苦笑
二人の性格がものすごく似非な気がしますし切ないのか微妙ですが許して下さい、あ、痛っ。石痛っ!

やはり文を書くというのは難しいです…


それでは主催者様、ここまで読んでくれた貴方様に感謝を込めまして。
有難うございました。



2009.07.16
 

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