展示用
□真夜中の電話
1ページ/5ページ
決まって、日付が変わった瞬間に鳴り響く。
繰り返される呼び出しに応じる事なく、ベッドの上でじっと発信源を眺めていた。
暗い室内で明滅するランプは鬱陶しいが、止める気にも目を逸らす気にもならない。
携帯を壊して以来、連絡手段はいわゆる宅電に切り替えていた。子機は無く、使わないFAX機能が付いている。
別にこだわっている訳ではなく、実家がそういうタイプだから慣れてしまっただけだ。
一人暮らしにしては珍しい家具だという自覚はある。今時は逆に、携帯しか持っていないのがほとんどだろう。
現代人の必須アイテムも、人付き合いをしなければ煩わしいだけだ。
そもそも電話自体にいい思い出が無い。しかし電話連絡先は生活に必要で、やむなく引っ越し先にも持ってきた。
番号を得るためだけのそれは、滅多に使われなかったのに。
今はこうして近所に迷惑をかけ、設定通り、3度目のコール前に留守電を発動した。
『…………。』
機械音声の促しに応じる事なく、真夜中に掛ける程の用件は吹き込まれない。
向こうに“誰か”いると、辛うじて感じられる気配だけが伝わる。
毎日毎日こうして無音が録音され、数秒で終わる。最早イタズラ以外の何物とも思えない。
だが、どうするつもりも起きなかった。