小説

□君とずっと
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 一人で帰らなければならない道。
 私たちの行く道は反対方向だ。
 けれど…。



『君とずっと』




 普段なら気を使って真っ直ぐ帰る事もある。
 ただ、今はお互いの方向が一人ずつ。
 一緒にいたいのは私のわがままなので、私が沢渡くんについていく。

 駅までのほんの数分。
 でもそれが惜しい。
 たった数分でも一緒にいたい。

「あ、ちょっとコンビニ寄っていい?」
「別に構わないけど?」

 それなら別れてもう帰るとは言い出さない私を疑問にも思わずコンビニに入る君。
 その背を見送って待ちぼうける。
 嫌な時間ではない。
 あぁ、せっかくならついていけば良かったかなと思う頃には彼は戻って来た。

「お待たせ。いやー腹へってさ」
「まあ、夜も遅いしね」

 チラリとコンビニで買った肉まんを頬張る彼を見やる。
 一口の大きさが実に男らしい。
 私の口ではあんなにいっぺんには食べれない。
 そう思いながら見ていると、視線に気付いたのかこっちを見て首を傾げた。

「羽柴も食う?」
「いや、いいよ」

 断って歩けばもうすぐ駅。
 学校から近いのって、こういう時には損した気分になる。

 はぁ、とため息をついて横を見れば、既に食べ終わった彼が口元を拭っていた。

「なんだよ、やっぱ食いたかった?」
「…いや、私が食べたかったのはそっちじゃないかな」
「どういう意味?」

 不思議そうに首を傾げるその動きはあの人にとても似ていて。
 あぁ、移ったんだな、ってちょっと心が音を立てて絞まった。

 でも私は自分より少しだけ高い位置にある彼に、少しだけ背伸びをして口付けた。
 きょとんとした後、徐々に顔が赤くなる。

「なっ…!」
「ごちそうさま。じゃあね」

 手を振り道路を渡る。
 私が行かなければいけない駅へ。
 彼の駅と反対の駅へ。

 彼は何も言わない。
 たぶん言えない。
 いつも通りの「また明日」も、「何するんだ」という文句も。
 彼はいくらか罪悪感を持っている。

 私の想いに応えられない事に。

 その甘い所があるなら利用させてもらうまで。
 悲しく惨めな気持ちにならないわけでもない。
 ただ、でも。

 あぁ…こんな日々がずっと続けば良いのに。

 そういえばあの人もこの前そんな事を言っていたと思い出して苦笑いした。
 なんだかんだで私も君もずっとあの人に振り回されるんだろう。

 帰路を急ぐ私は、先ほどの彼の表情を思い出して、あの人の影を消そうとして、消えない事に忌々しさも愛しさも、色んなものを感じた。




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