小説

□おやつの時間
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 自慢じゃないけど、僕の彼女はどこの誰よりも可愛い。
 その理由の一つがあの人懐こさ。
 そして、食べ物を与えた時のあの幸せそうな顔。
 難点は誰からでももらう上に、誰にでもその顔を向ける事。



『おやつの時間』




 時刻は3時。おやつの時間といつも柚は言う。
 今日も例に漏れず言うのかと思っていたのだけれど。

「しばたん、それ何?」
「葛餅です」

 羽柴が食べようと開けた葛餅をじっと凝視する柚。
 僕は知ってる。あれは「欲しいな」と言ってるんだ。

「欲しいですか?」
「うん」

 すごい早さで返答する柚。
 ため息を一つつくと、羽柴は楊枝に葛餅を一つさし、きな粉と蜜をたっぷりつけて、柚の方に差し出した。

「わーい」

 楊枝を受け取るでもなく、口を開ける柚。
 親鳥からご飯をもらう雛みたいだ。
 その様子に呆れたような表情をしていた羽柴は、柚の口の傍まで持っていってから、パクリと食べた。

「ほえ?」
「誰があげるって言いました?」
「酷いよー」

 思いっきり眉を下げて泣きそうな顔になる柚。
 無視して自分だけ食べ続ける羽柴。

「七海さん」
「?」

 ふとまた一つとって柚に差し出す羽柴。
 柚はきょとんとして首を傾げた。

「要らないんですか?」
「いる! いるいる! いります! もらっていいの? 食べていいの? 食べていいの? 食べて…」
「早くしてください」

 冷たく言いはなつ羽柴に素早く葛餅をパクっと口に入れる柚。
 その途端に幸せそうな顔になる。
 でも羽柴は呆れ顔。

 食べ終わるとまたじっと羽柴の葛餅を眺める。
 やっぱり羽柴はそれを無視。

 何も持ってない僕はいたたまれない。
 絶対に明日はお菓子を持ってくる!
 柚の為に心の中で誓った。



 
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