通りすがりのニンフ

□純白の無音の世界。
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はらりはらりと雪が舞う中、梵天丸は庭に立ってその雪を見上げていた。
空から落ちてくる雪。雲から次から次へとやむ事を知らない。

ふと、雪を手に取った。大きな雪の粒は手の微かな暖かさによって溶けてその姿を消してしまった。
その雪の儚さを悲しむように、ぎゅっとその手を握り締めた。
雪がたくさん積もっている事で雪に吸収されているのか音が少ない。
しんしんと雪が降る音すらも無く、無音の世界、自分の出す音だけが聞こえる。

また空を見上げる。
顔にいくつもの雪が落ち、溶ける。

「梵天丸様!」

真っ白な世界の中、自分の名前を呼ぶ声がしてゆっくりと振り返った。
そこには白い息を吐きながら自分の元へ駆け寄ってくる小十郎だった。

「小十郎」

そう呟いて私は小十郎の方へ数歩足を動かした。その間に小十郎はあっという間に私の側に来ている。
小十郎は心配そうな表情を見せながら髪や着物ににかかっている雪を払い落とした。

「外に出るときは小十郎に言ってくださいとあれほど言っているではありませんか。
こんなに体を冷やして。」

そう言って小十郎は私の手をとって自分の手の体温で私の冷たくなった手を温める。

「すぐに部屋に戻ろうと思ったんだ。」

私が小十郎に対抗してそう言うも「いいえ、ちゃんと小十郎に言ってもらわなければなりません。」
と言って眉間に皺を寄せ、怒っている顔をして見せた。
「はい・・。」そう言って私は小十郎の手に自分の手を重ね、自分の頬に小十郎の手を寄せた。
少し驚いた小十郎だが、すぐにまた元に戻り、
「ほら、頬もこんなに冷たくされて・・。」
と溜息をつく様な吐き出すように言われた。だが声は決して私を傷つける声ではなく
私のためを思って、心のそこから心配している声だった。
「ごめんなさい」そう呟いて私は小十郎の手から小十郎の瞳へと視線を変えた。
すると、小十郎はふっと優しい表情に戻り「今度からは約束を守ってくださいね」
と、私の頬に触れている手と反対側の手で私の頭を撫でた。

私は頬に触れている小十郎の手が温かい。
その小十郎の温もりを求めるように私は両手で小十郎の手を握り締め頬に小十郎の手を摺り寄せた。

大きくて、硬くて、ごつごつしている小十郎の手。何度も何度も私を守ってくれた大好きなその手。
小十郎の手がこんなにも愛おしい。小十郎の手だからこそこんなにも胸が締め付けられるほど。
小十郎は黙って私にされるがままでいた。

「小十郎」

私は小十郎の手に自分の唇を寄せて小十郎の名前を呼んだ。

「何でしょう梵天丸様」

数テンポ遅れて小十郎の返事が返ってきたが、その小十郎の声は、脳の奥がじんじんするほど甘ったるくて、優しくて、温かくて。
その余韻に少し浸りながら私は小十郎を見つめた。

「お前の手、好きだ・・・・。」

そう言うと小十郎はすっと目を細めて優しく微笑んだ。

「小十郎も、梵天丸様が好きですよ。」

手はそのままで小十郎は私の視線と合う様にしゃがみ込み
私の体を軽く抱きかかえる様に腕を体に回した。

私は小十郎の手が好きだと言ったが、小十郎は私が好きだと言った。
その小十郎の言葉に嬉しさで私は瞳が潤んだ。

「俺も好きだよ」

そう言って小十郎の手から自分の手を離し、小十郎に抱きつくと、小十郎も優しく抱きしめ返してくれた。

雪が舞い落ちる中、真っ白な世界で私は幸せな音を聞いた。






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ここまで読んでくださった皆様、リクエストしてくださった刹那さん!
本当にありがとうございます!!!

なんだか短い作品になってしまいましたね(汗)
とりあえず、寒いので温もりが欲しかったんです。管理人が!
本当に、寒い季節は寒い小説しか書けないみたいで、いくつか他の作品と被ってしまって申し訳ないです。
春になれば春の小説を書くと思います!!(多分)

短い上に、デジャブな作品。
リクエストしてくださった刹那さんに申し訳ない気持ちで一杯です!!

刹那さん!リクエスト&相互ありがとうございました!!

それと皆様!これからもよろしくお願いします!!

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