狐花は恋をする

□簪が胸に突き刺さるようだ。
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政宗に会ってから五日が過ぎた。
その間私は一度もあの場所へは行ってはいない。行って、もし政宗に会ってしまえば私はきっと政宗にこの気持ちを伝えてしまうから。
竜神様も居るのに、皆の期待を背負っているのに、私はなんて馬鹿で愚かなのでしょう。
政宗も好きで、竜神様も好きだなんて。
こんなことだったら政宗に会わない方が良かった。そしたら今頃私は竜神様を心よりお慕いしていたと思うから。

二股。なんて嫌な響きだろうか。絶対二股はするものかと思っていたが、まさかこんな形でそれを迎えるなんて思っても居なかった。

どうしたらい?私はどういう風に行動すればいい?
二人に、竜神様に嫌われたくない、政宗に嫌われたくない。
私はそんな事を言う資格なんて無いのに。いっその事この事を竜神様に言ってしまおうか?そしたら私の事を嫌いになるかもしれない。いや、やめよう。竜神様に嫌われるなんて嫌だ。

まるで子供の駄々こねの様。あれも嫌だこれも嫌だ。じゃあなんだったら言いのだと言う。
自分に問いかけても何も答えは出てこないことは知っている。
うじうじうじうじ。嗚呼、自分が今ものすごく大嫌いだ。自分の一番嫌いな人種になってしまった。
うじうじと、ああ、気持ちが悪い。

そんな時私の部屋の前に人影が現れ、「姫様宜しいでしょうか」と声をかけられた。

「ええ、構いませんよ」

と、言えばすっと、音も無く障子を開き廊下から姿を現した、ここの、私の城の女中。

「竜神様が来て下さいました。」

客間に居りますので準備をして竜神様の元へ・・・。と女中さんが言った。
私が竜神様と政宗のことで悩んでいるというのに、その本人が来た。との知らせ。
私は、顔を合わせづらいとと思う反面、久しぶりの竜神様に会えるというわくわくと楽しみにも、喜びにもとれる感情が交差している。
最近は忙しくなかなか合えなかった竜神様。自然と客間へと向かう足取りも軽くなる。

がらり、と客間の戸を開けると綺麗な着物を着ていつものように綺麗な髪をして竜神様がそこに居た。
私を見て頬を綻ばせる竜神様にずきりと心臓が痛んだ。

「久しいな妖狐の姫」

「ええ、お久しぶりです竜神様」

竜神様は私の手を取ると自分の方へ引き寄せ私を御自分の胸に押し付けるように私を抱きしめた。
竜神様の香りが、竜神様の手が、腕が、体が、私に触れる。
暫く私達はお互い懐かしむように抱き合った。
その間、優しく私の髪を撫でる竜神様の手が気持ちよくて、温かくて。

竜神様と私は向かい合った。
竜神様の綺麗な瞳を見ながら私は竜神様の話しを聞いた。

「それでな、提案があるんだがいいか?」

「提案?なんでしょうか」

「少し一緒に買い物に行かないか?」

「まぁ、竜神様と!喜んで御一緒させて頂きます!」

私がそう言えば竜神様はやはり優しい、嬉しそうな笑みを浮かべるのだ。


私達は共の者をつけずに城下町に行った。一緒に行くのが竜神様とあっては皆も私たちの邪魔をしてはいけないと思ったらしい。
それに、竜神様であれば私が危険な目にあうことも無いだろうと。

場所は・・・奥州。
もうこうなってくると竜神様が何か知っているのではないかと不安になってくる。
しかし、竜神様は本当に政宗の存在、私の心境を知っていないらしく、笑顔で話し掛けてくる。
城下町には竜神様の髪は目立つので黒髪に変えていた。
黒髪の竜神様も格好良くってそのことを竜神様に伝えると竜神様は真剣に黒髪にしようかと悩んでいたので
やっぱり普段の竜神様が一番格好いいですよと伝えると竜神様は笑顔で私の頭に唇を落とした。
そして「妖狐の姫、俺の変えられるところがあったら何でも言ってくれ。俺は妖狐の姫の心から好きな男になりたいんだ」と言った。

「いつもの、そのままの竜神様が一番好きです」

と伝えると竜神様はやっぱり嬉しそうに笑った。
町を歩いているとやはり町の人の視線が痛かった。
竜神様は格好良いし、私も自分で言うのもあれだけど、姫の器に入ってるし顔は良いと思う。
竜神様はそんな町の人は視界に入らないと言う様に私に話しかけたり、お世辞を言ったりいつもどおりの竜神様だった。

私も竜神様のおかげで周りに視線を気にせずに竜神様に話しをしたり、食事をとったりした。
そして、今日竜神様は本当にお優しい方だというのが分かった。
だって、町中で迷子になっている子供の母親を助けたり、重い物を運んでいるお爺さんを心配していたんだもん。
竜神様は人の笑顔を見るのが好きだそうで、「ありがとう」と言われた時の笑顔が一番好きだそうな。
本当、竜神様のような人が居たら世の中は争いなんて何一つ無いのに。

ふと、その竜神様の足が止まった。
見るとそこには綺麗な簪があった。黄色と青の綺麗な簪。
竜神様はそれを見つめていたと思ったら店の中に入りその簪を買って来た。
竜神様の高度の速さに驚きもしたが、買った時の竜神様の顔はわくわくとしていて可愛らしかった。
そんな事を言ったら竜神様に怒られてしまうかしら?

竜神様は買って来た簪を私に見せると私の髪に挿した。
あら?と驚いていると竜神様は「やっぱり似合うな」と何とも嬉しそうな顔で言った。

「竜神様これは?」

そう言って挿した簪に手をやると、龍神様は「妖狐の姫に贈り物だ」と言って私の手をとりその手に唇を当てた。

「俺の色の青と、妖狐の姫の黄色。
青と黄色が混ざっているのがとても綺麗でな・・・・。思わず一目で気に入ったんで何も言わずに買って来たんだが、すまなかったな。何も言わずに、驚いただろう?」

申し訳なさそうに言う竜神様に「いいえ、大丈夫ですよ。それよりも竜神様と私の色が良く似合っていると言われると嬉しいです。」と言うと竜神様は頬を赤らめ私の肩を引き寄せた。

「帰るか妖狐の姫。」

そう私の耳元で囁いた。甘えたようなその言い様に私も頬を赤らめ「はい。」と頷いた。

その時、私の視界に入ったのは驚きと寂しいというような表情が混ざった顔をしている政宗だった。
あ、会ってしまった。脳内でそんな言葉が思い浮かんだ。
政宗は一体どれほどの時間私たちを見ていたのだろう。固まったように動かない政宗。
私の赤くなった頬も青ざめたことだろう。
政宗は周りにも目をくれず、私たちを見ていた。幸いにも竜神様は政宗の事は視界に入っていなかった。
政宗の横を竜神様と通り過ぎた時、政宗は絶望しきった顔をしていた。

嗚呼、心臓が痛い。

暫く離れてから後ろを見ると遠くから項垂れた政宗の背中が見えた。

嗚呼、ごめんなさい。









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