通りすがりのニンフ

□城下町は色んな色がした。
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今日急に小十郎に城下町へ行きましょうと言われた。
何でも父上が私をつれて城下町に行って来いと命じたからだそうだ。
私が考えるに父上はいつも小十郎と二人の私が将来人嫌い、人に慣れさせる、などという理由で行ったに違いない。

目の前の小十郎が微笑みながら私を見ている。
そうだね、最近ん何もなくて退屈していたところだし。

「行くか」と、その一言を小十郎に言った。

「それでは早速参りましょうか」

そういうことで私は城下町に向かう事になった。
ところで「行く」と言ってしまった後で思ったのだが、正直父上の考え通り私は人嫌いになりつつあっていた。
人がたくさん居るんだろうな。怖いな。だが、それとは裏腹に楽しみという気持ちもある。

そう言えば城下町は初めてだった気がする。いや、初めてだ。
一体どういうものが売られていて、一体どういう人が居るのか。
建物は?食べ物は?人柄は?次から次へと思い浮かんでくる疑問に答えが追いつかない。

小十郎と城下町に向かう足取りの中私は小十郎と繋いでいる手をぎゅっと強く握った。
小十郎がそれに気付いて「どうなされましたか梵天丸様?」と聞いてきた。

「・・・・・」

私はこの気持ちを何をどう言ったらいいのかわからなくて黙って小十郎を見た。
すると小十郎は私が何も言ってないのに「大丈夫ですよ」と言って手を繋いでいない方の手で頭を撫でてくれた。

ああ、小十郎はやっぱり私の事を分かってくれるんだ。
感動と喜びでなどでか、私は頬が赤くなった。気がした。

暫く経つと人通りが増え、町並みがだんだんと賑やかなものになってきた。
辺りに人が絶えず歩き回り声を出している。物を動かしている音がする。

いつも静かな城の中と違って常に音の聞こえてくる世界は私にとっては少し不快感を与える。

「梵天丸様ここが城下町ですよ」

そう言った小十郎は私の機嫌をいち早く察知し「少々五月蝿いですね」と苦笑した。
私はそんな私を気遣ってくれる小十郎に微笑んだ。

「さぁ、梵天丸様行きたい所がありましたらどこでも言ってください。」

そう言われてもどこに行けばいいのか分からないし、何があるのかも分からないし。
困った私は小十郎の行きたいところは何処かと聞いた。

「小十郎も特に行きたいところはないですね」

「そうか・・・・」

「ふふっ、それでは甘味処でも行きますか」

「行くか」

そんな流れで私達は甘味処に行った。
着いたのはいいが何を頼めばいいのか分からなかったから小十郎と一緒のあんみつにした。
隣に並んで一緒に同じものを食べて。こんなことが楽しいなんて思ってもいなかった。

「美味しいですね」

「うむ」

口をもぐもぐと動かしながら私は言った。
そんな私の様子を小十郎は嬉しそうに見た。

「梵天丸様と一緒に食べるとより一層美味しく感じられます」

お世辞みたいな、いや、お世辞なんだけど。
お世辞を言う小十郎に私は「変な嘘はやめろ」と笑いながら言った。
すぐに小十郎は「嘘じゃありませんよ」と返す。

あんみつも食べ終わりどこに行こうと考えていると小十郎の動きがぴたりと止まった。
なんだろうと思い小十郎を見ると、暫く心ここにあらず。しかし、すぐにハッとなって私に「すみません急に立ち止まったりして」と言った。

何があったんだろうと気になったけど、あんまり深く追求しなかった。
だけど、何があったんだろう・・・・。
なにか、欲しいものがあったのかな??それとも・・・女の人??
私は変な考えを頭を振って忘れさせようとした。

「小十郎。何か欲しいものでもあったのか?」

私はとりあえずそう聞いた。
小十郎は暫く考えてから「いえ、何もありませんよ」と答えるが、その暫くの間が凄く気になった。

「いいのか?別にいいんだぞ」

「・・・・。」

小十郎は無言だ。何かを言いかけてはまた口を閉じた。
私は小十郎を見た。

「すみません梵天丸様少しここで待っていて下さいますか?」

そう言う小十郎に私は微笑んだ

「勿論だ」

小十郎は安心した顔で私を店の前に待たせ中に入って行った。
小十郎が何か買っているのをちらりと見たが何を買ったのかは分からない。

その時ドンッという衝撃が肩にあった。
びくりと肩を揺らし上を見ると薄汚れた着物を着たお世辞にもかっこいいとは言えない男の人が居た。見ると薄笑いを浮かべている。

「おい、どこ見てんだガキ」

そう発した男の人の言葉は確実に私に向けられているものだった。
だらしなく口元を緩め酒でも飲んでいるのか酒臭い。

「お前こそどこを見て歩いている。こんな所を歩くなど自ら当りに行っているようなものだぞ」

ムカツクから私も対抗して言った。言うと男の人は薄笑いをやめ怒りに顔が歪んだ。
そんな顔私には怖いともなんとも思わない。
それにこの人は私にわざと狙って当った。多分金でもとる気だろう。
私はそこら辺の人よりも服が綺麗だからどこぞの坊ちゃんだと思ったんだろう。

「生意気な口きいてんじゃねぇ!!」

相当短気なのか今にも掴みかかろうとばかりのその人。に私は顔を歪めた。

私達の横を通り過ぎていく人達は私達を見るが助けようとはしなかった。
中には助けようとするのだがあと一歩前に足が出ない。

そんな皆を見ながら私は溜息をついた。
世の中こんなものばかりかと。

「なんだ、その人を見下したような眼は・・・。皆して俺をそんな眼で見やがって!!」

「だったらもう少し頑張って仕事をするとかしないのか??
こんなことをしている暇が合ったら仕事でも探せ」

「五月蝿ぇ!!なんでそんな事お前みたいなガキに言われなきゃならねぇんだよ!!」

「お前よりも考えが大人だからだ」

「てめぇ、殺すぞ!!」

怒りに怒ったその人は顔を真っ赤にして私に掴みかかって来た。
左手を掴まれ逃げられない私に殴りかかってきた男の人は動きを止めた。

見れば殴ろうとしている男の右手は誰かの手によって動きを止められていた。
後ろを振り向けば鬼のような形相の小十郎が男の腕を掴んでいた。

「小十郎!」

周りに居た人たちは小十郎が止めに入ってくれて安堵の息を漏らした。

「テメェ・・・ぶっ殺す」

強面の小十郎が言うその言葉はすごく凄みがある。
さっきまでの怒りは男から消え、今は小十郎に対しての恐怖しか残っていない。
怒りにより赤く染まっていた頬は恐怖により青白いものになった。人はここまで変わるものか。と不思議に思うくらいだ。

「ひぃっ」

男から短い悲鳴が漏れた。

「梵天丸様に手を出してただで済むと思うなよ」

男はパッと私の腕を掴んでいた手を離し震えだした。
見ている側から男があまりにも可哀想で私は小十郎に「男を逃がしてやれ」と伝えた。

「しかし!!」

「男も色々困っていたのだろう。それに俺も言いすぎたしな。この俺に免じて今日のところは見逃せ」

「・・・・。」

小さい子供に頭を下げる男を周りの皆はどう思うのだろうか。
私は男を見た。私にでさえも恐怖を感じるのか顔を引きつらせている。

「今日のところは見逃そう。ただし、これからこう言う事が一度でもあったら俺はお前を許さない。いいな」

男の人は「はい」と声を裏返させ、私たちに背を向け走り出した。

周りに居た人も安心してまた前を歩き始めた。

「申し訳ございません梵天丸様。」

「別に構わない。何事も無かったからいいじゃないか」

「しかし、もし何かあったらと思うと、小十郎怖くて仕方がありません」

「そんな風になるな。その時はお前が助けてくれると信じてるから平気だ」

「梵天丸様・・。」

私たちは足を城に運ばせた。
色々合ったが初めての城下町はなんだかんだで楽しかった。
何より小十郎とこんなに楽しい事が出来たのだ良かった。
城下町を見るたびに小十郎を思い出すに違いないと、私は思った。
そういえば、小十郎は何を買ったんだろう・・・。


「小十郎」

「はい、何でしょう」

「さっき何を買ったんだ??」

そう言うと小十郎は微笑んだ。

「これですよ」そう言う小十郎の手には綺麗な青い水晶のようなもので出来た俗に言うブレスレットだ。

「綺麗だ」

私は素直にそう思った。

「南蛮のものらしく珍しいですし、梵天丸様に似合いそうだったもので」

そして小十郎は私の手をとって私の手にそれをはめた。

「・・・俺に、か?」

まさか自分の物だと思ってもいなくて私は驚いた。

「はい。ああ、思った通り凄くお似合いです。」

そう言う小十郎は凄く嬉しそうで嬉しそうで。見ているこっちまで嬉しくなりそうだ。

「・・・・本当か??」

「ええ、本当です」

私は顔を綻ばせた。

「梵天丸様は本当に美しい。水晶でさえ霞んで見える。」

「褒めすぎだ」

「本当の事なので仕方ありません」

「・・・・。」

私は照れくさくて黙ってしまった。
何故小十郎はこんなにも恥ずかしい事を普通に言ってのけてしまうのだろう。

「ありがとう」

「どういたしまして」









ここまで読んでくださいました皆様、リクエストしてくださった千鶴様。ありがとうございます!!
それにしても千鶴様、遅くなってすみません!!本当、申し訳ないです・・。
内容も、あれ?と思うものですし。本当っ、申し訳ございません!!
こんな作品でよかったら貰ってください・・・。ありがとうございました!!

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