通りすがりのニンフ

□役者二人の夜の御伽噺。
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今日はすごく冷えた一日だった。一気に冬に近づいたという事が分かった。
ついこの間まで秋だ秋だと思っていたのだが、その秋ももうすぐ終わりなのかもしれない。
一日が終わる夜に私はそう思った。

「梵天丸様もうお休みになられましょうか」

「そうだな」

そう言って私は小十郎が寝具の隣に座っている状態で寝具の中にもぐりこんだ。
小十郎は私が寝るまでこうして隣に居てくれる。
寝具に入ったがまだそんなにねむくなかったので小十郎を見ていた。

「どうなされましたか梵天丸様?」

「いや・・・なんでもない」

整った顔立ちの小十郎はきっともてるに違いない。そんな小十郎が私の隣に居る。
私は布団を顔まで上げるとふふふっと笑った。

「梵天丸様なにやら楽しそうですね」

私の笑い声が聞こえたのか明るい声をして小十郎が言ってきた。
再び布団から顔を出し「まぁな」と笑顔で言うと小十郎も笑顔になって「それは良い事ですね」と言い私の頭を撫でた。

ひんやりとする空気になれた私は小十郎の温かい手が気持ちよくてすぐに眠ってしまった。

梵天丸が寝たのを見計らって小十郎は自分の部屋に戻った。
今日は昨日読みかけだった本を読んでから横になろう。
そんな事を考えて。


どのくらいの時間が経ったのだろう、ぱちりと、私は目が覚めた。
外はまだ真っ暗で朝が来る気配も無い。
こんな時間に目が覚めるのは久し振りだ。ごろんと体を横にして寝ようとするが、目が冴えてしまってなかなか寝付けない。

ふぅ。と溜息を一つついて上半身を寝具から出した。
すると、なんだか外が異様に明るいのに気が付いた。
なんだろうと思い外を覗いてみると空に綺麗な真ん丸いお月様が浮いていた。

「満月だ・・・」

思わず口にしてしまったその満月はすごく綺麗で、すごく輝いていた。
私はその満月に見惚れていた。なんて綺麗な満月なんだろうと。
冬に近づき、空が綺麗に見えるというのもあるが満月そのものが綺麗で見飽きる事が無かった。

あの月に手が届くかも。
夜というのは不思議で昼間なら絶対ありえないような事も考えてしまう。
思考が鈍っているのか?それとも夜だということで何をしても許されるという考えから来るのか。

私は左手をすっと満月に伸ばした。
その時、背中から誰かに抱きしめられた。驚いたが、私はこの匂いを知っていた。

「どうした小十郎」

私は手を下ろして、背中にいる人、小十郎を見ず月を見ながら答えた。

「・・・すみません。あのまま、貴方様が月に連れて行かれそうに見えましたものですから・・」

そう言う小十郎は不思議と馬鹿らしいとは思わなかった。
それは、今日の月がきっと綺麗過ぎるからだろう。

「月に連れて行かれる、か・・・」

「はい、申し訳ありません主にいきなり背中から抱きつくなど・・」

そう言って私の体から離れようとする小十郎に、私は小十郎の手をぎゅっと握り締めた。

「梵天丸様?」

驚きの声を漏らし、小十郎は私を見た。

「このままでいい。そうすれば俺が月に連れて行かれる心配も無いだろう?」

意地悪にそう言ってやると小十郎も笑顔で「そうですね、このまま私が貴方様をここに留めて置きましょう。月に連れて行かれないように」と言った。

そして、小十郎は私の体を持ち上げると自分の体の中にすっぽりと収めた。
背中に小十郎の体温を感じながら再び月を見た。二人、私と小十郎で月を見る。

「まるで俺はかぐや姫だな」


私はぽつりそんな事を呟いた。


「それでは私はかぐや姫の翁というところですかね」

私の呟きに乗ってくれた小十郎に「ははっ!お前にぴったりだ!」と笑って言った。

「しかし、私が翁だったらにかぐや姫を月に帰しませんので話が進みませぬな」

あまりにも真剣にそう言う小十郎。

「そうだな、お前なら出来そうだな。さっきみたいにな。」

「ええ、出来ますとも」と言って小十郎は笑った。

「絶対月に返すなよ」

「勿論です」

自信満々に言う小十郎に笑みを溢しつつ私は欠伸を一つ。
それを見逃さなかった小十郎は私を抱えて部屋に連れて行った。

「もう少し見ていたかったな」

「また、見れますよ。今度見る時は小十郎も呼んで下さいね」

「分かった」

小十郎は私を優しく寝具に降ろすと額に一つ唇を落とした。

「おやすみ」

「おやすみなさい梵天丸様」

その一言を境に梵天丸はスヤスヤと寝息をたてた。

まったく、主は目を離すとすぐ何処かに行ってしまって。と小十郎は苦笑いをした。

梵天丸の部屋を出てから異様に明るく光を発する月を一睨みした。

「かぐや姫は渡さねぇぜ?」

そういい放つとすぐに月から目を離し自分の部屋へと向かった。
そして皆が寝静まった後も、今夜だけの命の満月は異様に明るい光を発していた。










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ここまで読んでくださってありがとうございます!!
今回は紫瀞さんのリクエストという事で書かせていただきました!!

リクエストの内容がなんとも萌えるのなんのって・・・。私の文章で萌えが感じられたらいいのですが(汗)
それにしても、役にノリノリの小十郎!!かぐや姫はアドリブだったんですが大丈夫でしたでしょうかね??

リクエストしてくださいました紫瀞さんありがとうございました!!
それと、いつもコメントありがとうございます!!これからも宜しくお願いします!!

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