通りすがりのニンフ

□まだ時間が足りないだけ。
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ふわり。と風が髪を巻き上げた。
私は一人縁側で庭を眺めていた。すっかり秋らしくなってしまった庭を一人淋しく思う。
これから冬がくる。
冬は嫌いじゃないが寒すぎるのはちょっとあれだ。まぁ、今年は小十郎に抱きついていればいいか。
なんて、脳内で考えていた。


「?」

目の前で何かが横切った。
私はびくっと肩を揺らす。

目の前を横切った者の正体はどこから紛れ込んだのか分からない猫だった。

久しぶりに見る猫。猫はじぃっと私を見ていた。
白と黒のぶち模様の猫。


そういえば、私がこっちの世界に来たきっかけは猫を追いかけて車に轢かれたことだったな・・・・。
あの頃は、単純で(今もかもしれないけど)純粋だった。
殺される恐怖も知らなかったし、ただバサラの世界に行って好きなキャラとお話して。
なんてそんな事考えていた。

今ではの頃の自分に色々と問い詰めたい気分だ。
私は、ハハッ。乾いた笑いをした。


そんな私を今だじいっと見ている猫に両手を差し出す。


「おいで」


そう言うと猫はすんなり私の方へ歩み寄り私の手に顔を擦りつけた。
私は猫を抱きしめると膝の上に乗せ猫の体温を感じた。
人懐っこい猫は多分どこかで飼われている猫なのだろう。

迷子・・かな?

猫は可愛くって、可愛くって・・。私は猫を撫でていたらだんだんとこの猫が欲しくなってきてしまった。
小十郎に飼ってもいい?って聞いてみようかな。
小十郎はなんて言うだろう・・・。



私は猫をいったん押入れの中に入れて、小十郎の部屋に足を進めた。


私が小十郎の部屋に行くと、小十郎は笑顔で私を迎えてくれた。


「小十郎」


「なんですか?}


一瞬私は言おうか言わないか迷った。

「何か動物を飼ってみたいんだが・・・駄目か?」

「駄目です」

笑顔だった小十郎の顔が一気に厳しいものに変わる。

それに、小十郎にしては珍しい即答の「駄目」だった。
私は何処か心の中で許してくれるだろうという気持ちがあったためか小十郎の答えに酷く動揺した。


「何故だ?」

私は少し怒り気味に聞いてみた。

「・・・・動物は短い命。いずれは死んでしまいます。
梵天丸様は大切にしていた命が消える時、悲しまずにいられますか?」

その小十郎の答えを聞いて私が言おうとしていた言葉をぐっと抑えた。


「分かった・・・・。」

私は顔を小十郎に見られないように下に下げ小十郎の部屋を出て行った。
大人しく部屋を出て行く私に小十郎は何も言わなかった。


部屋に戻り私は押入れから猫を出してあげた。

飼いたかったな・・・。
たしかに、大切にしていた命が消える時。私は悲しむだろう・・・。
しかし、少し時間が空いた時、小十郎がこうして忙しい時は猫と居れば淋しい気持ちが無くなるのではないか。私はそう考えていた。


小十郎に黙って飼ったらいいのではないのか?

小十郎は絶対に許してはくれない。だから、隠れてこっそり飼うのはどうだろうか?
一度考え出した思考は止まらない。
私は小十郎に内緒で猫を飼う事にした。


飼う場所は私の部屋から少し離れた場所にある物置小屋。
外にあるので猫の鳴き声も聞こえる心配はないだろうし
そう遠い場所じゃないのでこっそり出て行ってもすぐに戻ってくる事が出来る。

ご飯は私の朝餉、夕餉からこっそりとっておいた物をあげた。
手に擦りついたり、手を舐めたり。猫に会うと心が癒された。

小十郎にばれないまま一週間が過ぎた。
このまま飼い続ける事も可能じゃないか?そう思われた時だった。


「梵天丸様気は済みましたか?」


いきなり、何の前触れもなく言われた言葉に私は目を丸くした。
そう言う小十郎の顔は少し悲しそうだった。


「な、何がだ?」

動揺しながらも小十郎に問う。

「猫でございますよ」

ばれていた。
私は体中から冷や汗が出てくるのを感じた。

「・・・・・・・。」

思わず黙り込んでしまった。


「小十郎は言いましたよね、駄目だと。」

「・・・・・・・・。」

「あの猫の飼い主が見つかりました」

「・・・・・・・・。」

「今日にでも返しに行こうと思います」

「・・・・・・・・そうか」

私はあえて反発しなかった。


そして、その日昼。猫は飼い主に届けられた。
その事を告げに来た小十郎に私は顔を合わせようとしなかった。


「飼い主は喜んでおれらましたよ」

「そうか」

何をするわけでもなく。ぼーーっと外を眺めた。
空は青空で、乾燥した風が落ち葉を巻き上げた。


小十郎は私に近づいてきて、何も言わずに抱きしめてくれた。

「もう少し、梵天丸様が成長されたら何か飼いましょう」


耳元で囁かれる声に私は無言で頷いた。


「梵天丸様は心がお優しいですから、飼える様になるまでには心を強くしておきませぬとな」

また、無言で頷いた。


私の目から落ちる水が小十郎に着物を濡らしていたのに小十郎はきっと気付いていたのだろう。


たった数日一緒に居ただけてこれだ。
強くならないと。

私は馬鹿みたいに泣く自分にそう言い続けた。







――――――


はい、今回は七万hitを踏んでくださった紫瀞なんのリクエストとして書かせていただいた小説です!
ほんのり切ないつもりが思いっきり切なくなってしまいました・・・・。
いや、こんなのを貰っても嬉しいのでしょうか・・?と不安で仕方ありません・・。

こんな出来になってしまいましたが頑張って書かせていただきました、お目汚しだと思いますが貰ってやってください。

リクエストして下さった紫瀞さんありがとうございました!!

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