通りすがりのニンフ
□甘酸っぱいような苦いような。
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いつもの朝は決まって小十郎の声で起こされた。
大好きな小十郎の声を聞いて起きれるなんて、なんて幸せなんだ。私はそう思う。
起きて、着替えて、朝餉を済まして、勉強して、それでそれから・・・・いろいろな事をして・・。
私は今日やる事を指を折って考える。やっぱり、やる事は特に何も無いな。
ふぅ。と小さく息を吐いた。
「梵天丸様」
後ろから声がかかり、私が後ろを振り返ると小十郎が笑顔で私を見ていた。
なんだろうと思って小十郎を見ると、ああ。と私は理解した。
すくっと立ち上がると、迷わず小十郎の元へ行き、小十郎の膝の上に座る。
そうして私の勉強は始まる。小十郎の膝の上に座って戦い方、算数、漢字。様々なものを学ぶ。
初めは向かい合って座っていたのだが、私の我儘からこういう形になった。
この方が、私が騒がないし、分からないところがすぐに教えられるので小十郎としてもこちらの方が楽なのだと最近感じ取っている。
今日も小十郎との静かで落ち着く勉強が始まる。そう思われた時に、私の部屋に来客が来た。
その人は、私の大好きな父上。
最近までは父上には笑顔を見せもしない、あまり話しもしなかったのだが
小十郎が居ないと不安になってくるあたりか、それとも小十郎に自分から触れるようになってからか、だんだんと、父上とも仲を取り戻しつつあった。
「よぉ、梵天丸。今日も小十郎の膝の上で勉強か?」
髪を掻き揚げる仕草、唇の両端をぐいっと上げる仕草。全てが完璧の父上。
私の中の一番は小十郎だけど、その小十郎にも負けないくらい大好きな大好きな父上。
私は無言で小十郎の膝の上から立ち上がると、よろよろと父上の方へ進み父上にしがみ付いた。
そうすると父上は私の頭を優しく撫で、そこから次に私を抱き上げ私の額に唇を落とす。
私は抑えきれない笑顔を父上に向けるのが恥ずかしくて父上の襟元に顔を埋める。
「小十郎の言う事はきちんと聞いてるか?」
耳元で聞こえる父上の声。私は「うん」と呟く。
「勉強ははかどってるか?」
「うん」
「外に出てるか?」
「うん」
最初の質問以外は毎回違う質問に私は毎回同じように答えた。
「よし、いい子だ」
そう言って父上は目を細めて顔をくしゃりと崩した。
そうして、力一杯私を抱きしめるもんだから苦しくて仕方がないのだが、それさえも嬉しい。
私も負けじと父上の首に腕を回して抱きつく。
これが私達親子の愛の形。
もう、父上には心配をかけないと心に決めた私は、昔のように・・・とは言えないが今新しい形で、と言っても抱きつく形で父上に愛を示している。
言葉数は少ないがきっと伝わっているはず。
「小十郎梵天丸に何か変わった事はあるか」
父上が小十郎に話しを振った。
「いいえ、いつも通りなんの変わりはありません」
頭を下げ父上の返答に答える小十郎。
「そうか」
満足したように呟く父上。
「それじゃあ、梵天丸の事は任せたぞ」
そう言って私を離そうとする父上。
父上はいつも忙しい。忙しい仕事の合間にこうして私に会いに来てくれるんだ。嬉しい。
けど、すぐに父上は行ってしまう。それが悲しい。
部屋を出て行く父上の背中を見ながら私は溜息をついた。
くるり。小十郎の方を見た。
小十郎はなにやら眉間に皺を寄せ難しい顔をしていた。
なんだか近くに行くのを躊躇わせる顔。
「小十郎?」
私は小十郎に話しかけた。
すると小十郎は顔をぱっと変えて笑顔になる、が、その笑顔もなんだか不自然。
私が小十郎の顔をじぃっと見ているものだから小十郎が「どうしたのですか梵天丸様?」と言ってきた
「小十郎何を考えていたんだ?」
そう言うと小十郎は焦ったように素振りを見せた。
「いえ、何も考えてはおりませんよ。それよりも続きをなさいましょうか」
話をそらそうとする小十郎に私は近づいて小十郎の額をべしっと叩いた。
いきなりの事に目を丸くする小十郎。
「嘘吐きだな小十郎は」
そう言うと、小十郎は驚いた顔をした後、悲しい顔をして「すみません」と言う。
言ってから「梵天丸様はお父上様が本当にお好きなのですね」と囁くような声で小十郎は私に言った。
ああ。そうか。
私は心の中で微笑んだ。
「ああ、そうだな・・・・。」
私がそう言うと小十郎はまた眉間に皺を寄せて難しい顔になった。
「けどな」
私はそう言って付け足した
「俺はお前も好きだぞ」
そう言うと小十郎は驚いた顔をしてから満面の笑みを私に向けた。
「勿体無きお言葉有難う御座います」
顔を下げる小十郎。私はそれを「顔を下げ床を見るくらいなら俺を見ろ」と制した
「はい」
顔を上げた小十郎に満足して、私は再び小十郎の膝の上に座った。
座ってから私はクククッと小さく笑った。
小十郎も嫉妬するんだ。
―――――――
今回は相互サイトとなったミキさんのリクエスト。
「輝宗様と成り代わり主の仲が良くて小十郎がヤキモチを妬く」と言う事でした。
小十郎のヤキモチなんて考えてもいなかった事なのでドキドキしながら書かせて頂きました!
満足していただけたかどうかは不安ですが・・・・作者はこれが限界です(汗)
それでは、ミキさん!相互ありがとうございます!!そしてこれからも宜しくお願いします!!
ありがとうございました!