狐花は恋をする

□赤い鳥居と青い人。
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私は竜神様が帰った後、私がどういう返事をしたのか気になってしかたがないという皆にきちんと小石を渡したと言う事を報告した。
皆は安堵の息を漏らしながら私に祝福の言葉を送った。
私はそれを笑顔で「ありがとう」と言って受け流した。


私の心にある変な違和感が気になってしょうがない。


私は急ぎ足で自分の部屋に向かった。
後を追いかけるようにして来た女の人が式は一ヵ月後だと教えてくれた。
以外に遅かったので理由を聞いてみると、色々な妖怪を呼ぶのでその準備等がある為一ヵ月後らしい。

女の人曰くもっと早く式を挙げたいのだけど・・・と言っていた。

残念という顔をしていたので私は慰めるように女の人に声をかけた後、女の人は満足したように私の部屋を笑顔で出て行った。


私は一人になった部屋で何もするわけでもなくただ座っていた。
そして、さっきの出来事をしばしの間思い出していた。


隣にある引き出しの一番上の段を開ければ竜神様にいただいた婚約の証の小石が大事そうに布に包まれて入っている。
私はその布を取り小石を手のひらにのせて小石を見つめた

水の様に透明感があって、それでいて綺麗な青色の小石。


ふと、私は外を見た。


私の視界に入ったのは前に気になっていたあの赤い鳥居である。


ずっと気にはなっていたが特にどうするわけではなかった
しかし、何故か今になって鳥居がもの凄く気になりだした。


私は立ち上がると廊下ですれ違った女の人に「鳥居を見てくる」とだけ言ってその場を後にした



歩きづらい「おこぼ」とう下駄を履いて鳥居の前に来た。
鳥居は部屋で見るよりも大きくて数もたくさんあった。

私はしばらくその場で鳥居を眺めていたが、ある一つの鳥居をくぐった。


私は目を丸くした。



何故ならば私が居る場所が全く違う風景になっていたからだ。



「えっ!?」



さっきまでは庭の彼岸花に囲まれていたのだが鳥居をくぐったらそこは竹薮の中。


私は驚きと好奇心が隠し切れず辺りをキョロキョロと見渡した。


後ろにある鳥居は私が庭ででくぐったものと同じで大きくどっしりと構えている。
その大きな鳥居の後ろには申し訳なさそうに小さな祠が祭られていた。



私はもう一度鳥居をくぐった。するとそこは私の庭。

どうやら鳥居は庭とある場所へと行くための通行手段の様なものだというのがわかった。


--そうか、皆はいつもここから出かけていたんだね.


私は一人納得していた。



もう一度同じ鳥居をくぐって竹薮の中へと入った。
私の今の心境は、新しい遊びを考え付いた子供のようだった


今だったら何でも出来そうな気がする!そんな気持ちを持って私は竹薮の中を歩いていった



上を見れば青々とした空が竹の隙間からちらりと見えてとても清々しかった。

太陽の光も竹薮の隙間から差し込んできてとても綺麗だった。


私はついさっき竜神様に婚約した事も忘れてしまいそうなほどわくわくしていた。


スキップをしそうになったが、ただでさえ歩くのが辛いおこぼである。
スキップなんてしたら足をひねって嘆くのがオチだ。
スキップの事はは頭の中から消した。



どのくらい歩いたのだろうか。帰り道がわからなくなるからあまり鳥居の遠くへは行ってはいなかったが
それでもやはり鳥居からは離れているところに私は居た。


そろそろ帰らなきゃ。
そんなことを考えて私の近くにあった古ぼけた小屋の隣を通った。


小屋の隣を通り過ぎた事で私の動きは止まった。
遠くの方に人影が見えた。


直感的にあれは妖怪ではなくて人間だな、というのがわかった。


私は久しぶりに見る人間のの姿をもう少し見てみようと小屋の陰になるようにその体を隠した


その人は私に気付かずいてか気付かないでかこちらに近づいてきた
私はただその人を見ていたが。私の存在に気付いたらどうしようと思い
いったん体全てを小屋に隠した。


こんな派手な身なりをしているし、なんて言ったらいいか・・・。


もうそろそろ行ったほうがいいかな。



久しぶりに人間の姿が見れたからいいか。そう思って私はその場を後にしようとした。


何度かこけそうになりながら足を進める。


そういえば、さっきの人はこちらに向かって来ていたけど、私に気付いてないよね?
多分近くにあった井戸に用があったんだよね。


けど、もし私に気が付いてこちらに来ていたら・・・・。



私は急に自分の行動が浅はかだった事を軽く後悔して、さっきの人がこちらに来て私の存在に気が付いていないことを願った


恐る恐る後ろを振り向けば人影はなく、さっきまで私の居た小屋がぽつんとあるだけだった。



私は胸を撫で下ろし、また前を向いて足を進めた。が、後ろからガタンと音がして驚いた私は反射的に後ろを売り向いた。




「・・・・・・。」



私はこれこそ驚いて何も反応できなくなってしまった。


小屋の近くに居たのは、さっきまで私が見ていたあの人だったのだが・・・・



その人は・・・・私のよく知っている人物だった。




「・・政・・・宗・・?」




掠れながら言ったその言葉は当の本人には気付かれなかっただろう。


私の目の前に居たのはあの大好きなバサラの政宗だった。
驚きなんて通り越して。ここってバサラの世界だったんだ、私トリップしてたんだね。なんて冷静に頭の中で考えている。



目の前に居る政宗。
大好きな政宗が私を見つめていた。
驚いたような・・・・なんとも察しがたい顔で私を見ていた。政宗が何を考えているのかわからないが、目を細めて私を見たその表情はなんだか悲しさが伝わってきた。


その後は微動だにしない政宗。また、私も同じく瞼をするのも惜しいと感じるほど政宗を見ていた。



政宗はやっぱりかっこよかった。
風に流れる髪とか瞳とか唇とか・・・・。それに青い着物がよく似合っていた



暫くの間時が止まった気がした。


時が止まるってこんな感じなんだ・・・・。


私はただ本能のままに政宗を見ていた
そしてそのときの中で心臓だけが忘れずに動いていた。自然と鼓動が速くなる。
胸が苦しくて息苦しくなってきた。






「・・・・あんたは・・・」





ここで政宗が言葉を発した。
その瞬間私ははっとなった。



姿を見られた。


私は逃げる様に走った。
後ろで政宗が遅れて走って来るのがわかった。


走りにくいおこぼ。なんでこんな履物しかなかったんだろう!
私はおこぼを脱いで手に持ち走った。


私と政宗の距離はだんだん縮まっていく。


私は後ろに政宗を感じながら鳥居をくぐった。



鳥居をくぐると私の庭。彼岸花が風に揺れていた。
後ろを振り向けばそこには赤い鳥居だけが立っていた。
向こう側に見える景色は彼岸花だけ。



私はさすがにこんな姿は見せられないので、慌てておこぼを履いて肩で息をした。



呼吸も落ち着き。私はさっきのことをもう一度思い出した。



あれは間違いなく政宗だった。
声も政宗だった。



私は嬉しくて一人その場にしゃがみこんで泣いた。









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