通りすがりのニンフ

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一週間。
とうとう一週間が経ってしまった。
私は悲しい気持ちを持ちつつも弥三郎と向き合った。

「政宗、本当に行っちゃうの?」

今にも泣きそうな顔をしながら弥三郎は私の手を握り締めながら言った。
私は胸をずきんと痛めながら「ごめんな」と言って弥三郎の頭を撫でた。

私と弥三郎の周りには私たちを見守るように喜多や忍び、国親、弥三郎の家臣女中達がいる。
国親かからは手紙を受け取り父、輝宗に渡すように言われた。

「私、政宗と離れたくない!!」

瞳から一筋の涙が零れた。私は微笑んで弥三郎の涙を拭った。

「大丈夫だ弥三郎、俺達はまた会える。」

「本当?本当だよね??」

涙を流し、苦しそうな表情を見せる弥三郎に私は「ああ、本当だ」と宥める様に言うと
弥三郎は初めてそこで笑顔を見せた。

「私、絶対強くなって政宗に会いに行くから!」

「じゃあ俺は待ってるよ」

突進するように私に抱きついてきた弥三郎に驚くも
私はしっかりと両腕で弥三郎を抱きしめ、その絹のような髪に頬擦りした。ふわふわと柔らかな髪。

暫く経ってから私達は離れた。
弥三郎の瞳にはもう涙は無く笑顔だけだった。
喜多が私に近づき荷物を渡してくれた。

「それじゃあ俺は行くな」

「うん、じゃあね」

「またな」

「またね」

そう言って私達は長曾我部を離れた。
涙は出なかったけど悲しかった。年の近い友が出来て、話して。
そんなのは初めての事だったから。
だけど、自分で言ったように一生のさよならじゃない。絶対私と弥三郎は会う。そう確信している。

またね、弥三郎。

私はもう一度弥三郎にお別れを言った。「さよなら」は言わない。なんてべた過ぎるけど。

そして、私は心を切り替えた。
あとは奥州に帰るだけ。もうすぐ、もうすぐで小十郎に会える・・・・。
そう考えるだけで心臓がバクバクと激しく動く。
帰りは長曾我部国親が用意してくれた船を使って移動もあるという事なので、行きよりも早く奥州に着けるだろうと喜多は言った。

船に乗り、海の匂いのする風を全身に浴びながら私は遥か遠くの奥州を見つめた。

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