通りすがりのニンフ

□私がお前でお前が私で。
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喜多に手を引かれ部屋に戻ってきた私を待っていたのは今にも泣きそうな顔をしている小十郎だった。
私は喜多を部屋から出して二人になり私と小十郎向かい合って顔を合わせた。
小十郎は泣きそうな顔をしながら何も言わないまま・・・。

「そんな顔をするな」と、私は短く小十郎に言った。

「お前は悪くない・・・・。正しい事を言ったのはお前だからな。」

そう言うも、小十郎の表情は変わらない。私は小十郎になんていえばいいのかわからなくなった。
その時小十郎が口を開いた。

「梵天丸様が泣かれた時、私は何も出来なかった。私のせいで梵天丸様は悲しまれた」

眉間に皺をより一層深く刻み吐き出すようにそう言った。

「私は、私が嫌いです」

私は立ち上がり小十郎の頬をバシッと叩いた。小十郎が眼を丸くして私を見る。

「嫌いとか言うな!!」

自分でも驚くような大きな声で言った。
私が自分の事を嫌いだと思っているときに自分を大切にする事と好きになる方法を教えてくれたのは、気付かせてくれたのは小十郎なのに・・・。
その小十郎が自分の事を嫌いなんて言って腹がたったというか、悲しくなったんだろう。

「・・っお前が、お前が!!!」

また涙が出てきて思うように言いたいことが言えない。
そんな私を小十郎は身動き一つせずに見ていた。
私は涙をぐいっと拭うとまた大声で言った。

「お前は俺だ!!俺はお前だ!!お前が嫌いだと言うならば俺のことも嫌いという事になる!!」

小十郎は顔色を変えて「小十郎は梵天丸様は嫌いなどとは!」と言ったが私がその言葉を遮った。

「言った!!そう言うことだ!!
いいか!!お前は俺の右目だ!勝手にそんな事を言うのは許さない!!」

半ばキレながら私は小十郎に言った。

「右・・目??私が、梵天丸様の??」

確かめるように聞いてきた小十郎に「そうだ!!」と即答してやった。

「俺はお前の事は嫌いじゃない、だからお前も自分の事が嫌いじゃないだろ!!」

なんという屁理屈か。一体自分でも何を言っているんだか判らなくなってきている。
意味のわからないことを言って、逆切れしながらで、小十郎は困っているだろうな。

少し落ち着いてから私は小十郎に言った。

「小十郎。嫌いじゃないよな?」

赤くなった瞳を小十郎に向ける。

「はい。」

掠れる様な声で小十郎は言った。

「次一度でも言ったらただじゃおかないからな」

「はい。」

さっきよりもはっきりとした声で小十郎は言った。
その言葉を聞いて安心した私はふぅと息を一つ吐いてその場に座り込んだ。

「申し訳ございません、梵天丸様。小十郎は馬鹿でした。」

そう言って小十郎は私を抱え自分の膝の上に私を乗せた。

「分かればいい」と言って私は小十郎の頬に触れた。すると擽ったそうに小十郎は笑った。
ああ、やっと笑顔になってくれた。私は頬を緩ませた。

そういえば・・・

「・・・喜多から聞いたぞ」

「・・・何をですか??」いきなり聞いたと私がいい始めて何がなんだかわからない小十郎。
一体何の”聞いた”なのか分からない様子。

「お前、教育係となった喜多に嫉妬してたんだってな」

そう言うなり小十郎はまた目を丸くして、今度は顔を赤くして驚いた顔をした。

「・・・え、いや・・それは・・」

なんて言えばいいのか分からない様子。こんなに焦っている小十郎ははじめて見た。

そんな小十郎の様子に私は笑みを見せた。
情けないところを見られ、さらに情けない事を知られてしまい小十郎は一気に落ち込んだ。

言わない方が良かったかな??なんて思ったけど、私は小十郎が嫉妬してくれて嬉しかったんだよね。

「小十郎。」

「・・・はい」

「いい事を教えてやろうか??」

「・・はい?」

私は小十郎の膝の上に居る状態で小十郎に抱きついた。
首の後ろに腕を回し近くに小十郎の耳が見える。耳まで真っ赤に染まっていた。

「梵天丸様!?」

いきなり抱きつかれて驚いた小十郎だが、手はしっかり私を支えていた。

「俺も、義姉弟の喜多に嫉妬してるんだよ」

そう照れながら言うと小十郎は嬉しそうに笑い私を強く抱きしめた。





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