この恋を忘れた頃

□心の中って難しいよね。
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私は伊達政宗にある部屋に連れて行かれた。


「ここがお前の部屋だ」


そう言う伊達政宗。
部屋といわれても私は今日にでもここを出て行くし関係ない。


「ふーん」


私は軽く返事をするとつまらなそうに遠くを見つめた。
部屋に入ると中は綺麗な着物が飾られていた。

どうやら私へやるみたいだけど正直こんなものいらない。どうせだったら刀とか殺すのに役に立つものが欲しかった。


私が部屋に入り数歩歩いて寝転ぶと、政宗も一緒に中に入ってきて私の前に座った。



「・・・何?」


私は寝転びながら言った。


「特に理由はねぇ」


「じゃあどいてくれない?邪魔なんだけど」


「別にかまわねぇだろ?」


「・・・・まぁ、いっか」



なんか会話するのも面倒になって、話を断ち切り、私は伊達政宗が見えないように反対側を向いた。


暫くの間流れる沈黙。


伊達政宗は一向に出て行こうとしない。いまさら私が「出て行け」って言うのもあれだしなぁ・・・。

なんて考えていたら伊達政宗が話しかけてきた



「なぁ、あんたはこの世の何もかもつまんねぇと思ったことは無いのか?」


変な質問だった。


「無いよ。私は何も感じないの」



ごろん、とまた伊達政宗の顔が見えるように横になった。


伊達政宗は変な顔をしていた。


「何もかもか?」


「何もかもっていうか、感情?楽しいとか、悲しいとか、そういうの判らないみたい」


私は「残念」というような顔をした。


「その顔はつくっているのか?」


「・・・・顔はつくる物じゃないの?」


私はそれこそ変な顔をした。だって自然に出る顔なんて何一つ無い。
私の表情は全てつくっている。皆そうだと思っていた。


「違うな」


私は、その伊達政宗の返答に驚いた。



「じゃあ伊達政宗のその表情は全部本物?」


「違うな」


またもや変な返答に私は頭が痛くなった。


「じゃあ、何なの?」


「顔の表情はつくる時もあれば、つくらなくても良い、本当の顔が出る時があるんだ」


そう言いながら伊達政宗は煙管に火を付けた。
部屋の中に漂う白い煙。



「そうなんだ。私も出会ってみたいな。自分の本当の顔に」



まぁ、その為には殺す事から始まるけどね。




「感情がないって言ったな・・・・。どんな感じなんだ?感情がねぇっていうのは」



ずいっ。煙管で私を指しながら言った。
私の顔の近くで煙管の煙が揺れる。煙くて私は咳を一つ漏らした。


「なんとも思わないんだってば。だからよくわかんない」


私は付け足すように言った


「だけどね。感情は無くても驚く事は出来るし、虚しく思うことはあるよ?」


「つまんねぇ感情だな」


「そう?私にはこれしかないからわかんないけど」



私はそう言いながら伊達政宗を見た。
見れば見るほど、何処かで見たような気がする。と、思うと次には何を思っていたのだか忘れてしまう。



「俺の顔に何かついてるか?」



私がいつまでも見ているから、伊達政宗が問いかけてきた。



「特に何も?」



「じゃあなんでさっきから俺の顔をジロジロ見てんだよ。」


「知らない」


私はそっぽを向いた。

伊達政宗を見たら何か思い出せると思っていたのにな・・・・。



あーあ。早く夜になんないかな。



「お前は他の奴とは違う」


伊達政宗がポツリそう呟いた


「?」


私は頭の上に?マークをつける。



伊達政宗は苦しそうに顔を歪めると、私に言った。



「わりぃ。少し愚痴らせてくれ」


伊達政宗は吐き出すように言う。


「俺は正直この世がつまんねぇと思っている。出来る事ならこの世から逃げ出したい。
だが、出来ない。苛々する。むしゃくしゃする。

だから、すぐに手を上げる。俺はこんな俺が嫌いだ。こんな世の中が嫌いだ。


それと小十郎は俺に嫁を貰えと言うが、俺は女は嫌いだ!
俺と同じように女も嫌いだ!気持ち悪い。何を考えているのかわからない。あの匂い。肌の感触。絶えられねぇ・・・・。

まして娶?冗談じゃねぇ!!俺は女は要らねぇ。子供もいらねぇ。

ただ俺が面白いと思えるものだけがあれば良いと思う。


今のところ、小十郎とお前だ。」



そう言い終わると伊達政宗はさっきよりは少し気持ち的に楽になったのか穏やかな雰囲気を出していた。


私は伊達政宗の考えを考えていた。
だがいくら考えても「それじゃあまるで私が物みたいじゃないか!」と言うなんともいえない感想しか出てこない。

都合の良いことなんて私の口から出てこない。伊達政宗に私は何も言ってやる事が出来ない。



そんな私の考えを察してか



「別に何も言わなくていいぜ」と言った。


その言葉を聞いて私は安心した。



私には伊達政宗の考えはわからない。
どうすることも出来ないのだ。



「今俺が言った事は忘れろ。いいな」


伊達政宗は立ち上がり鋭い目をして私に言った。
その目から先ほどには無かった不安が生まれている。


伊達政宗自身、正直こんな話をするつもりじゃなかったのだろう。



「忘れる事は出来ない。だけど、誰にも言わない。」


私がそう言うと。ふっと伊達政宗の肩の力が抜けたのが判った


それに、今日出て行くしね。
この言葉は私の胸の中だけに押しとどめて。

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