狐花は恋をする

□百鬼夜行のような・・・。(前編)
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最初の一日は何がなんだかわからないうちに過ぎ去っていった。はじめという事もあり殆ど何もしないで過ごした


二日目の朝は窓からの明るい光で目が覚めた。

むくっと布団から起き上がると肩にかけていた着物がぱさりと落ちた。

私は何故か目の前の棚の上に置かれた彼岸花に目がいった。

そういえば何故姫の条件で花を付けろなんてあったんだろう・・・・・。

なにか意味があるのだろうか?
わからないけど・・・。


くぅーーーっと両腕を伸ばし体をほぐす。
体が良いようにほぐれて楽になった。上に伸ばしていた両手を下げる。


その時障子に人影が映った。


「姫様、失礼します」

と、女の人の声が聞こえた。


「はい、どうぞ」


その言葉を言うと女の人は障子を開け部屋に入ってきた。
深々と頭を下げると私に朝餉と着物を持ってきてくれた。

「姫様。お召し物は何に致しましょう?」

と、私の身の回りの世話をする女の人が話しかけた。
この女の人はこの城にたくさん居る。いわば女中のような人だ。


名前は教えてもらえない・・・。




それとこの私の城には結界というものが張られているようで外から人間は入ってこれないという。

これは私も、やっぱり皆妖怪なんだなぁとあらためて実感させられた。   


庭にはたまに行く。庭には当たり一面たくさんの彼岸花が咲き乱れていた。

ここの空間の彼岸花、そのほかの植物は枯れる事は無い。

結界に囲まれているこの一帯は人間世界ではありえないようなことが起こる。

人間界に近い場所でありながら、妖怪の世界にも近い場所。


これが昨日のうちに私が教えてもらった事。


「それじゃあ・・・これで。」


と、適当に緑色の着物を選んだ。


「はい。わかりました」


着物を着付け終えると女の人は「失礼しました」と言って部屋を出て行った。


私は一人静かに朝餉を食べる。
寂しいな・・・・。


食べ終えると、まるで私の側に居て今まで見ていましたよ、というようにすぐに朝餉を下げるための人が来た


朝餉だけを下げに来たのかと思ったら、その人は今日の用事と言うものを言ってきた。


なんでも知らないことだらけだしいきなりの事が多すぎる。



「姫様、今日の用事はまず姫様の話し方。礼儀作法。それから妖怪の長達への挨拶の練習です。」


「えぇ!?」


何その面倒くさそうな事!!


「そ、それ今日全部やるんですか!?」


驚きのあまり目が丸くなる。


「はい。姫様としての振る舞いを完璧にするまでです」


完璧にするまで・・・・?なにそんな笑顔で言ってんの?無理。絶対無理!!

・・しかしそんなことは言えない・・。


「そうですか・・・・。」



私はがっくりと肩を落とした。

そして私の地獄のような日々は続いた・・・。
って言うのは良いすぎかもしれないけど、私が何か一つ間違えるたびに送られるあの笑顔・・・。
怖い。

無言の圧力っていうのかな・・・。


それと敬語を使わない姫様の話方ってなんかどこぞのお嬢様みたいな話し方なんだよね・・・・。


私の全ての用事が終わるのに一日のほとんどを費やした。
部屋に戻りくたくたになった体を横にする。


「はぁ・・・・・」


心のそこからの叫びのようにため息をこぼした。


外はもうオレンジ色に染まり夕日が静みかけていた


また窓から外を見ていると昨日は軽く見ただけだったから気付かなかったけど
少し遠くのほうに赤い鳥居があった。

それも一つ二つじゃない。
何十という数の鳥居がずらりと並んでいる。


私はその鳥居に不思議なものを感じた。
いや、普通たくさんの鳥居があったら不思議に感じるよね。



そういう毎日が一週間ほど続いた。
そして事はいつもいきなり起こる。




「姫様。今日は妖怪の長に挨拶をする日でございます」


いつものように朝餉を食べている私に突きつけられた言葉。思わずご飯を噴出しそうになった。



「それって今日でしたっ・・・・・今日なの?」


敬語は使わないようにこの一週間叩き付けられた。だからなんとかギリギリのところで止められた。


「はい、今日でございます」


またきた、この笑顔。
思わずわざとですか?って聞きたくなる。


そのせいか今日は皆慌ただしく歩き回っていた。私はもちろん邪魔にならないように部屋に居る。


そして、やっぱり着物もいつもよりもさらに豪華なものになっていた。

着物は一体何枚重ねしてるんだろうというくらい着込み、簪は花魁のように16個、櫛は3つ挿し、
彼岸花を今まで以上・・。着物は赤と金をベースとした着物。


女の人は私の部屋を出て行く前に香を焚いた。香の良い香りが部屋全体を包み込む。
私はぼーーーっとしながら部屋に飾られていた彼岸花を弄っていた


暫くの間は家の中が騒いでいただけだったが、次第に庭の外も騒がしくなってきた


こっそり外を覗くと、外にはたくさんの人がこの城に来ている姿が見えた。



私は慌てて覗くのをやめた。心臓がバクバクいっている。


何、今の人たちが妖怪!?


なんというかここに居る人たち以外の妖怪を見るのが初めてだったからかドキドキと驚きが隠せない。


たくさん人も居たし・・・。私があの人たちに挨拶?どうやってするの?

あーーーーもう!!本当に何をすれば良いのかわからないよ!!



「姫様」


障子に人影が映り障子越しに話しかけられた。


「なに?」


「そろそろ広間へ」


「わかりました」


と、短い会話を交わすと私は立ち上がり障子に近づくと向こう側にいた人が障子を開けてくれた


長い廊下をお供の女の人、それから男の人を連れて歩いた。


「ねぇ、挨拶ってどうすれば良いの・・・かしら?」


使いづらい言葉を一生懸命使い話しかける。


「姫様の好きなように話なさってくださればそれで十分です」


「けど、妖怪の長が集まってるのでしょう?変な事をいったら何か不審に思われるんじゃない?」


私は今自分が思っていることを話した


「それは無いです。貴方様は妖狐の姫様です。何を言おうが貴方様の勝手。
相手に気を使う必要などありません」



「・・・・・そうなの?」



そういうものなのだろうか。やはり妖怪。人間とは何処か少し違っていた



廊下を歩く途中妖狐では無い妖怪などに出くわした。
やはり皆人間の姿をしている。だが、耳が出ていたりなどと何処か人間らしくないところがある


私たち妖孤は(私以外)人間の姿になって耳は出ないようにして入るがどうも目が細くつりあがっている。

妖怪らしさがどこからかは出るらしい。


私たちは広間に着いた。中からは妖狐ではない者達の臭いがする


襖が両方から開かれ広間の中が目いっぱいに広がった。
最初ここに訪れた時は皆妖狐だったが今回はいろんな妖怪が集まっている。


私が一番前に座ると目の前には妖怪の長と思われる人たちがずらりと並んでいた。



「これから妖狐の姫様とその他の妖怪の対面を始めさせていただきます。」


と、男の妖狐が言うと長と思われる人たちと、その後ろに居る部下のような人たちが頭を下げた


「姫様から右に天狗様。犬神様。雪女様。鬼族様。鵺様。河童様。絡新婦様。まぁ、竜神様まで。・・・・・・。」


その他にも永遠と続けられそうなくらいの妖怪の名前の数。
多すぎるでしょ、これ!

げんなりとした顔で私は皆を見た。
多分不細工な顔になっていただろう・・・。


「・・・・・以上の妖怪が集まってきております。それでは姫様から何かお言葉を」


いきなり私に話が振られ戸惑う。皆の視線が私に突き刺さる・・・。



「・・・っ」


どうしよう、何か話さなきゃ!って言っても何を!?来てくれて嬉しい!!見たいな事を言うの??
ああーーーー!!もうあたって砕けろだ!!私だけが悪いんじゃないもん!!詳しく教えてくれない皆が悪いんだもん!!


「今日は私の為にその身をここまで運んできてくれた事嬉しく思い、こうして同じ妖怪の長として皆の姿を見れたことも誇りに思うわ。
妖狐の姫になったばかりであまりよく解らないけど、どうか仲良くやってくださいまし。」


そう言って不敵に笑ってやった。


「有り難う御座います」


そう言ってまた皆で頭を下げる。皆頭を下げるのが好きなのだろうか?


私はまじまじと妖怪の長達を見た。
ほとんどの長が男の人。だが、私のように女の人もちらほら居る。


それにしても、妖怪って美男美女揃いなんだよね。
妖怪って言ったらなんか不潔っていうイメージがあったけど、こうしてみる限り皆きれいな着物を着て清潔。
そしてなにより美男美女揃い。

私はこの体が器で、きれいな顔をしていて良かったと心から思った。
もし、前の私だったら場違いだ。

と、自分で考えていて悲しくなってきた。



・・・やっぱり、一番前に居るからか、私が妖狐の姫だからか、無なの視線がもの凄く痛い。食い入るように見られている。
痛っ!!


「はぁ」

私は出来るだけ皆にばれないように小さくため息をついた。








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