狐花は恋をする

□一面の彼岸花が。
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しゃんしゃん。


真っ暗な私の思考に鈴の音が聞こえた。
どこから聞こえるんだろう・・・。そう思った。


私は瞼を開けた。
目いっぱいに光を感じて眩しく、目を細める。

私は布団に寝かされているみたいだ。
ふかふかの布団に私の体が沈み全身の体を布団に預けている。
全身の力を抜いているので気持ちが良いと思った


ゆっくりと上半身を起き上がらせるときれいな着物が眼の端に映った。
私は自分の姿に目を落とした。

赤い派手な着物。模様も複雑でまるで花魁を思わせた。見るからに高そう。


部屋の中も見渡せば豪華な造りにきらびやかな小物が置かれていて
いかにもお金持ちの家だというのを主張していた


そこであることに気が付いた。小物の隣にある鏡を似たのだがある違和感を感じた。

鏡をてに取って自分の顔を見ると驚いた。私の顔はあの時狐が運んできたあの女性の顔だったから。

そう言えば狐は「器」と言っていた。
私はその器の女性に入ったと言う事なのか!?


自分の体ではなく人の体と言う事でなんだか妙な感じがする。

しかし、きれいな顔なので嬉しくもあった。



「目が覚めましたか姫様」



障子越しにそう声がかけられた


姫様・・・・と聞いても暫く何の事だかわからなかったが
さっきの出来事を思い出してはっとなった。


姫様って私の事か!!




「は、はい!」



慌てて返事をすると、障子越しでもその人がクスクスと笑った声が聞こえた


障子がスッと開ききれいな着物を着た女の人が私の目の前に現れた
その人がゆっくりと私に一礼して部屋の中に入ってきた



「はじめまして姫様。姫様になっての初めての一日何がなんだかわからないでしょう・・・。
まず、最初の挨拶のため広間に来ていただきたいのですがよろしいでしょうか?」


女の人に言い方はとても丁寧で恭しい。
それに笑顔を絶やさずに言っているので私に不快感など一つも与えていない



「あ、はい。大丈夫ですよ」


そう言うと女の人は苦笑いをした。


「姫様。姫様は妖狐の姫様なのですから私のような人には敬語なんて必要ありませんよ。
もっと姫様らしい態度をおとりになってください。これは皆からの願いでもあります。」


そう言われても・・・・・。
敬語を使うなって言われたってどうしたら良いのかわからない


私困った顔をしていると

「今はまだ姫様になられたばかり、これから話し方も教えますのでご安心を」


と明るい声で言ってくれた。


とてもありがたい。



そして私はその人に連れられて広間へと向かった。

廊下ですれ違う人たちが私を見て頭を下げる。初めてのことなので戸惑いが隠せない。



「ここです。」


そう言って手がさす方向には今まで私が一番大きいと思われる襖があった

両脇に居た人たちが襖を左右に開いた。


そして私の目に飛び込んで生きたのは広い空間の中たくさんの人たちが私に頭を下げていると言う光景だった。


「え、え?」


思わず情けない声が出る。どうすれば良いのかわからない私は当たりをきょろきょろと見る。
すると隣に居た女の人が私をその人だかりの前に誘導した。
そこには椅子があって私が腰掛けると頭を下げていた皆は一斉に頭を上げた。


びくっ。



そして一番前に居る男の人が立ち上がりまた頭を下げた


「今回は我らの姫様になっていただき誠にありがとうございます。
我ら皆全身全霊をかけ姫様に尽くす気持ちです。どうか、これからよろしくお願いします」


そして皆再び頭を下げる。


次は殺気の男の人よりも老けた男の人が出てきた。


私はいきなりの事で状況についていけない。頭の中はパニックだ。



「それではまず姫様に条件をつけます。」



条件!?なにそれ全然聞いてないんだけど!!


「一・姫様らしい態度を
 一・花はいつも見につけて
 一・人間には恋をしない

この三つでございます。」


それだけ言うとその人は下がった。


私は思ったよりも条件が少なかったことで安心していたが、色々と条件が気になっていた

何故花を身に付けなければならないのだろう?何かあるのか・・・。
何故人間に恋をしてはいけないのだろう・・・?そう思ったが。
まぁ、たしかに妖狐だから人間に恋をしてはいけないのかな?と独りでに納得して思った。



そして、暫くわけのわからない時間を過ごす。



「これより姫様との対面を終了させていただきます」


そう言われた時には私はもうげっそりしていた。
話が長すぎる。まるで校長先生の話のようだと思った。



また、女の人に引かれて最初の部屋に戻った。どうやらここが私の部屋のようだ。



女の人は私の頭を結い始めた。櫛や簪も挿しているので頭の上からシャンシャンと音が聞こえる。

そして最後の仕上げと言うように、女の人はどこから取り出したのかわからない彼岸花を私の頭に挿した。



「それでは何かありましたらそこの鈴をお鳴らしください。すぐに現れますので。」


と、それだけ言うと女の人は下がっていった。



部屋に残された私は暫くの間同じ格好をしてボーーッとしていた。

いきなりの事で頭がついていかない。


私はあの時妖狐の姫様になると言った。だからこうなった。ただそれだけなんだ。ただそれだけでこんなにも不思議なことになった。

ほんと、世の中は何が起こるかわからないと思った。




ふと窓を見れば窓からは彼岸花が当たり一面咲いていた。


「すごい・・・。」


しばしの間私は彼岸花に見とれていた。

これが妖狐の姫になってはじめての一日である。

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