赤紅の傷痕

□三
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見慣れた天蓋。寝室の寝台の上だった。

自然に起き上がると、頭や身体の各部が鈍く疼く。視界が柔らかく歪んだ。丁寧に手当てされており、白い包帯で巻かれている。

「……………」

「目が覚めた?まだ横になっていなよ」

「雀(シャン)」

扉の近くに、小さな器を持った雀が、夏侯惇に穏やかな表情で聞いてきた。椅子を足で小突き、動かしながら、寝台の横に置き、座る。

「起き上がるなんて、さすがだけど」

「おまえが、手当をしてくれたのか?」

「うん。手慣れたものだろ?これも飲め」

差し出された器を、夏侯惇はまじまじと見た。口に入れていいものなのか。中には、どす黒い緑の液体がある。

雀は小さく、笑った。

「安心しろ。ただの刀傷にいい薬だ。あの坊やのおかげかな、いろんな薬草があって、探すのに苦労しなかった」

「たしかに、姜維は薬学によく通じていた。薬茶を淹れてくれることもあったな」

「ふうん」

「この薬は雀が作ったのか?」

「当たり前だ。薬草さえあれば、他にもいろいろ調合できるぞ。毒から良薬までな」

「ほう」

「すごいだろ」

「これに毒を入れ込んであるまいな」

「毒と良薬は紙一重だ。いまの夏侯惇にそれは良薬で、毒じゃない」

「所詮、医者の真似事だか」

「生きていくための医術の心得だ。真似じゃない」

器を受け取り、唇をつけて飲む。舌の上に広がる苦い味に顔をしかめた。苦い薬をのどの奥に押し込めながら、自分はどうして寝台の上にいるのかと考えた。雀と刀を交え、斬られ、紅い瞳、後ろからの衝撃。

背後から頭を斬られたのか。無意識に、指が頭に触れていた。雀が、口を開いた。

「頭は、斬りつけてはいないよ。刃じゃないほうで、思いっきり、殴りつけただけだ」

「殴ったのか」

「それで、気絶したんだよ。悪かった。斬ったよりたちが悪いかも」

「いや、謝ることはない。私が望んだ結果だ。たちが悪くとも、殺さぬようにと信じておく」

「なら、気が楽だよ。まだ、寝ていたほうがいい。仮にも、頭を殴ったからな」

目を細めた。先ほどの獣のような恐ろしさが微塵もない。

「謝るのは、私のほうだ。顔を傷つけて申し訳なかった」

「これのことか?」

笑っていた顔が、少し憂いだ。血の止まった頬の傷を優しく指先で撫でている。浅かったから、大丈夫だと言った。気にするな。

「お前は、強いな」

捕らえることのできなかった速さ。一撃、一撃が重い斬撃。見た目のしなやかさに反しての攻めを、思い出す。

「言っただろう。俺が本気を出したら死ぬぞって」
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