赤紅の傷痕
□四
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理嬢を寝かしつけると、夏侯惇は自分の部屋で、従者のひとりと話し合っていた。
先日、城下で城のものと争っていた、旅人の動向を探らせた従者の死体が、見つかったという話である。
今朝方、川に浮いていたのを発見されたそうだ。
「奴に殺されたか」
「おそらくは」
重い沈黙がのしかかる。今の夏侯惇にとって、殺しとは、追い打ちをかけるもの以外に、なにものでもなかった。
「申し訳のないことを、したな」
「なにをおっしゃいますか、元譲さま。元譲さまが気を落としていては、あの者も浮かばれません」
「いや、これは私の失敗だ。そのような手練れのものであったなら……………私があの場で、あの旅人の外套を剥いでおくべきだった」
「しかし、これで一気に分かったことがあります。城下に間謀が紛れています。私の予測ではありますが、あの場での挑発的な言動と大胆な態度からして、頭の方はいささか足りぬのかもしれませぬ。うまくいけば、尾をだしましょう。しかし、忍びの手ほどきは受けていると思われますので、情報の一つも、漏らさぬようにしなければ」
「そうだな……………」
夏侯惇は頷く。
「民の間には、不穏は流れていないだろうか?」
「はっきりとは分かりませんが、大丈夫でしょう。もともと、この世の中ですから」
弄ぶように人間の身体を弄ぶ輩もいるのですから、と従者は付け足した。
「……………殺し方、はどうだった?」
「殺し方?」
「そうだ。もしかしたら、手がかりがわかるかもしれない」
「刀傷、でございました」
従者は、眉をひそめた。
「刀傷」
「はい。しかも、外傷は刀傷一閃のみなのです」
「……………たったひとつで死に至らしめた、と?」
「いかにも」