赤紅の傷痕

□二
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理嬢の部屋を出ると、すぐある庭先で植物の手入れをしている若者の姿が見えた。

若者の名は姜維。字は伯約。

金とも言えるほどの色素の薄い髪が、日の光に当たり、きらきらとしている。

姜維も夏侯惇に気づいたのか、軽く頭を下げてから
、近寄ってくる。

姜維は籠を背負っていた。取った枝や、花、葉を放り込むための籠である。

「庭の手入れか」

「はい、そろそろ、枯れてきたものが目立ってきましたので、取っていました。取ってしまいませんと、まだ丈夫なものにも、うつってしまうのですよ」

「そうか」

姜維は庭師ではない。ただ、植物が好きなのだという。ゆえに、庭の手入れをしたいというので、好きにやらせている。

もとは、理嬢の遊び相手とでもいうのか。年も近いので、その役目を頼んでいた。

「母君は息災か」

「はい。病も今は落ち着いているようです」

「しかし、郷里に残しているままでは、心配も尽きぬだろう?」

「それは、そうですが…………」

「遠慮はいらない。呼ぶといい」

姜維の母は、郷里で、自然の多い天水の土地で養療を兼ねて、一人で住んでいるという。

話に聞くと、夏侯惇の家に奉仕することになったとき、姜維の母は、親離れができたと。この機会に、持病の養療を本格的にしようと思ったらしい。

手紙のやりとりはしているらしいが、ろくに会いには行っていない。

奉仕を始めたのが、理嬢を連れて来た頃であるから、かれこれ、八年会っていないということになる。



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